金正男氏(45)がマレーシア・クアラルンプールの空港で暗殺された事件で、現地警察は2017年2月16日までに、実行犯とみられる女2人を逮捕した。ところが、15日には日本の複数の大手メディアは、日本政府関係者の話として、「実行犯の女2人死亡」情報がある、と報じていた。結果として「ガセ」情報を裏取り取材なしで報じた形となり、その検証力に疑問符がつきかねない状態だ。
情報の錯そうは続いており、正男氏の殺害方法をめぐっては、「毒針を刺された」「スプレーを吹き付けられた」「口にハンカチを押さえつけられた」などと諸説が報じられている。「毒殺」という点では共通している。
「実行犯」女2人を逮捕
現地の中国語紙「東方日報」(電子版)によると、現地警察は2月15日朝にベトナムのパスポートを持つドアン・ティ・フォン容疑者(29)を逮捕したのに続いて、16日未明にはインドネシアのパスポートを持つシティ・アイシャ容疑者(25)を逮捕した。マレーシア国営のベルナマ通信によると、裁判官が2月16日に警察を訪れ、容疑者2人の1週間の勾留を認めた。
この2人以外にも4人の男が犯行に関与したといい、警察が行方を追っている。4人の男が女2人に対して、正男氏の殺害を指示した可能性がある。
東方日報では、現地警察の話として、正男氏が
「何者かに不審な物体を吹きつけられて激しく苦しみ、病院に搬送される途中で死亡した」
として、
「2人の女のうち、1人が正男氏に対して液体を噴射し、もう1人がハンカチで被害者の顔を押さえるように指示された。それは10秒間にわたった。液体の噴射は『悪ふざけ』だと思っていたそうだ」
と伝えている。朝鮮日報によると、韓国政府も正男氏の遺体を確認したといい、当局者は
「口に泡があった。これは典型的な毒殺のサインだ」
と話したという。
正男氏の暗殺にどんな「毒」が利用されたかは現時点では明らかではないが、現地紙「ザ・スター」は、「ヒマ」の実からできる毒素「リシン」や、フグ毒として知られ、急速に神経を麻痺させる「テトロドトキシン」などが使用された可能性があると伝えている。
「複数の日本政府関係者によると」...
2人の女が逮捕されたことで、東方日報は、犯行を実行した人は「全員が逮捕された」としている。一方、15日段階では、日本政府関係者からは全く違う情報が発信されていたようだ。15日午前、テレビ朝日は
「複数の日本政府関係者によると、この工作員とみられる女2人はすでに2人とも死亡しているという情報があるという。ある政府関係者は『口封じではないか』との見方も示している」
と報じた。ネット版でも「口封じ?女工作員2人も死亡か 金正男氏『暗殺』」の見出しで11時50分頃に報じていたが、のちに記事を削除している。
日本テレビも同日午後、「日本の複数の政府関係者」の話として、
「その女2人は、別の工作員に殺害されたのではないかという情報も入っているという」
としていた。
TBSも同日午後、「政府関係者への取材」として、同様の報道を行っている。ネット版でも「北朝鮮 金正男氏殺害、『工作員』2人はすでに死亡か」との見出しで報じている。
このほか、共同通信も「日本政府関係者」が述べた内容として、現場から立ち去ったとされる女2人について「既に死亡した可能性があるとの情報がある」との記事を配信している。
暗殺された正男氏は、死亡時には「キム・チョル」名義の北朝鮮パスポートを持っていた。マレーシアのザヒド・ハミディ副首相は、パスポートの名義の問題を踏まえても、殺害された男性は正男氏であるとの認識を示し、解剖後の遺体は在マレーシア北朝鮮大使館を通じて親族に引き渡す意向を示した。菅義偉官房長官は2月16日午後の記者会見で、
「政府としては、マレーシア政府の発表をそのまま受け止めている」
と述べた。日本政府としても、正男氏が殺害されたとの認識を示した形だ。