東電を待つ「解体」圧力 「社債復帰」しても遠い「自立」

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   東京電力ホールディングス(HD)グループ(G)が、福島第1原発の事故が起きた東日本大震災発生後で初めてとなる社債の発行に踏み切る。

   2017年3月をめどに1000億円程度の発行を見込む。かつて震災前には発行体として国内社債市場の「ガリバー」だった東電だが、福島原発事故によって信用力が失墜。市場から資金を集める社債を発行できない状態が続き、発行は6年半ぶりとなる。「自立」への一歩とはなるが、重い事故の負担が続くため、再建の道が険しいことには変わりない。

  • 自立までの道のりは長い(東電HDのホームページのスクリーンショット)
    自立までの道のりは長い(東電HDのホームページのスクリーンショット)
  • 自立までの道のりは長い(東電HDのホームページのスクリーンショット)

傘下の東電PGが3月に発行予定

   3月に社債を発行する予定となったのは、東京HD傘下で送配電部門を担当する東電パワーグリッド(PG)。全体を統括する東電HD本体は、福島原発事故の負担にかかわるため、依然として社債市場に復帰できない状態が続く。福島原発の事故処理費用は廃炉、賠償、除染、中間処理施設建設のすべてが膨らみ、「従来想定の計11兆円が計21.5兆円に増える」との見通しが2016年末、経済産業省の有識者委員会で公表された。この費用のうち、16兆円を東電HDグループが背負い込むことになった。ただ、東電PGは東電グループの中でも収益力があり信用力も高いため、社債発行に投資家や経済産業省などの理解を得られると東電HDが判断した。近く社債の売り出しを担当する主幹事証券会社を選定する見通しだ。

   東電HDグループは震災直後の2011年3月末時点で社債(公募)は約5兆円発行しており、社債市場の主役である「電力債」の中でも最大規模だった。震災後、東電と連動する形で発行が途絶えた他の電力会社が次々と社債市場に復帰する一方、東電債の満期のよる償還が続いたが、東電債は現在でも最大規模の電力債の位置づけを維持。2016年9月の発行残高は約3.3兆円に上る。

   東電HDに対しては国が1兆円を資本注入し、50%超の議決権を持って実質国有化している。賠償や除染の費用もひとまず国が肩代わりし、主取引銀行は震災後も融資を継続しているため、手元資金は潤沢だ。このため、2017年度に今後のピークとなる6000億円超の社債の償還を控えてはいるが、すぐさま資金繰りに行き詰まるわけではない。1000億円という規模も、従来想定していた「2016年度中に3000億円」に比べれば大幅に少ない。

「信用力の回復を意味する社債市場復帰は悲願」

   それでも「信用力の回復を意味する社債市場復帰は悲願」(東電HD幹部)なだけに、東電HDグループにとっては復帰すること自体に意味がある。東電HDグループは2016年9月にも社債市場復帰をもくろんだが、福島事故費用がどれだけ膨らむかを経済産業省がまさに試算している時期だったため、断念した経緯がある。福島事故費用については一応の試算と負担の枠組みが昨16年末に固まったことで、投資家へのリスクの説明が可能になった。

   投資家にとっても妙味はありそうだ。かつては国債と並ぶ堅い投資先だっただけに利回りは国債並みの低さだったが、今回はさまざまなリスクを抱える分、一定の高さの利回りとなる見込み。とはいえ、福島事故費用は他の大手電力などを含めて負担する枠組み。そのなかで発行体が東電PGであれば、デフォルト(債務不履行)に陥るリスクは必ずしも大きくない。

   東電HDグループとしては、今回の社債市場復帰によって自らの資金調達能力を高め、自立に向けた歩みを進めることで、脱「実質国有化」を果たしたいところだ。実際、社債市場への復帰は国が出資比率を引き下げていくうえでの条件の一つとされている。

   しかしもちろん、自立はそう簡単な話ではない。経産省はむしろ、東電HDグループを解体し、原子力事業や送配電事業を他の大手電力と統合再編したうえで海外に打って出て稼ぐ姿を描いている。合計21.5兆円という福島事故費用も、特に世界で経験がなく今後数十年間続く廃炉については現在の8兆円で済むかどうかは見通せないのが実情だ。社債市場復帰は東電HDグループの自立への一歩ではあるが、あまりにその道のりは長い。

姉妹サイト