19年ぶりの日本出身横綱――。初優勝した稀勢の里への期待は高まるばかりだが、初場所(2017年1月8-22日)そのものは褒められるものではなかった。
2横綱休場のなか、陥落大関に完敗
千秋楽で白鵬に勝って優勝に花を添えたときの興奮は最近にないものだった。国技館はもとより、稀勢の里の故郷である茨城県はフィーバーとなった。「横綱誕生だ」と。
その思いは相撲協会も同じだった。待望の日本出身横綱である。
「先場所は準優勝、そして今場所優勝だ」
審判部が横綱昇進を諮る臨時理事会の開催を要請し、八角理事長が認めた。一部にあった慎重な意見をかき消した。
慎重な見方とは、今場所の低調にあった。
日馬富士と鶴竜の2横綱が7日目、11日目から休場。二人で9勝9敗(2休含む)でともに中盤で優勝の望みはほぼなくなっていた。
大関陣のひどさは目を覆うばかりだった。照ノ富士は9日目から9連敗の4勝11敗で、来場所はまたカド番。豪栄道は13日目から休場。琴奨菊に至っては照ノ富士と同じ12日目に負け越し、大関転落となった。
稀勢の里の対横綱、大関戦は2勝(白鵬、照ノ富士)1不戦勝(豪栄道)で、1敗はなんと琴奨菊。陥落力士に完敗した。
こんな場所でよかったのか、との声が親方の中にはあったと聞く。はっきりいって最近にないB級場所といえる。稀勢の里優勝の功罪である。
今場所は限りなく数少ないチャンスだった
もちろん稀勢の里に責任があるわけではない。彼個人のことを思えば、耐えに耐えて初めての賜杯を手にした努力は後輩たちに大きな励みを与える。優勝は横綱昇進とはそういう意味でも価値あるものだ。
稀勢の里は1986年7月3日生まれだから現在30歳の真ん中。名古屋場所は31歳になる。現3横綱とほぼ同じとなる。
厳しいようだが、年齢と今後を考えるとこの場所は限りなく数少ないチャンスだったといっていいだろう。
大きな理由の一つに生きのいい中堅、若手が上位にいる。11勝4敗で敢闘賞の高安、同じ星で技能賞の御嶽海らである。7勝8敗で負け越した正代もホープだ。彼らの勢いを止めるのは容易なことではない。
「これからも稽古をして強くなりたい」
稀勢の里は謙虚に語った。来場所からを見据えた言葉で、予想される注目度から新たなプレッシャーと闘うことになる。日本人横綱vsモンゴル勢横綱の構図は話題満載。3月の大阪・春場所は連日の満員御礼だろう。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)