室町時代の大事件「応仁の乱」に関する新書が、なぜか今、大ヒットしている。出版不況の真っただ中にありながら、8万部を狙う勢いで売上を伸ばしているのだ。
しかし、応仁の乱の一般的なイメージは「地味」。関係者の数は多く、背景も複雑、理解するのも一苦労だ。そのためか、小説やドラマ、映画では「冷遇」されてきた。今回のヒットを版元は、著者は、どう感じているのか。
一般的に、戦国時代の「幕開け」と
『応仁の乱』は16年10月25日、「中公新書」のラインナップとして発売された。初版は1万3000部。版元の中央公論新社によると、17年1月5日現在、8刷・7万8000部まで売り上げを伸ばしているという。Amazonや各種大型書店の売上ランキングにも一時ランクインするなど、同一カテゴリーでは異例の売れ行きとなっている。
応仁の乱は、1467年に京都で始まり、10年以上にわたって続いた。背景には、室町幕府のナンバー2である「管領(かんれい)」の対立と足利将軍家の跡目争い、全国に散らばる守護大名家の内紛があった。細川家や山名家、畠山家といったさまざまなプレイヤーの利害が複雑にからみ合い、戦況が泥沼化。終わりなき戦火で京都は荒廃し、幕府の求心力も著しく低下した。一般的に、戦国時代の「幕開け」とされている。
『応仁の乱』は、そんな大乱を「奈良」(大和国)からひも解く。興福寺の塔頭、大乗院のトップである僧侶(門跡)2人が書き残した日記をもとに、大和の政情に迫り、乱との関わりを、教科書的な説明から離れ、よりリアルに、より立体的に乱の内実を描いた。
著者の呉座勇一さん(36)は「戦争の日本中世史 『下剋上』は本当にあったのか」(14年、新潮社)で、角川財団学芸賞を受賞した新進気鋭の日本史学者だ。
「畠山義就が好きになった」
自著の大躍進をどう感じているのか。J-CASTニュースの取材に、呉座さんは1月5日、
「中公ブランドと『応仁の乱』というタイトルで2万部くらいはいくかもしれないが、登場人物の多さが敬遠されて伸び悩むと予想していた。短期間にこれほど版を重ねるとは想像すらしておらず、正直驚いている。私が考えていた以上に一般の歴史愛好家の知識・知的好奇心は高いレベルだった」
と感想を寄せた。
執筆でこだわった点、苦労した点を聞いてみると、
「大勢の人々の様々な思惑が絡み合う応仁の乱をいかに分かりやすく描くか、それでいて図式的な説明に留まらない臨場感のある叙述を目指したため、非常に苦労した」
と明かした。
ちなみに、読者から「畠山義就が好きになった」「乱を止めようとしたが止められなかった、近衛文麿(元首相)のような将軍足利義政が何故か嫌いになれません」といった反響が寄せられているという。
著者の「腕組み写真」を広告に...
中央公論新社側も予想外のヒットに驚きを隠せない様子だ。担当者は
「中公新書は歴史をテーマにしたタイトルも多いですが、ここ10年間で、珍しいくらいの当たり方です」
と取材に語る。
一方、新聞広告にはちょっとした工夫を凝らした。「有名なのに内容は誰一人知らない」というギャップを逆手に取り、「地味すぎる大乱」とコピーをつけた。
デザインもこだわった。呉座さんの「腕組み写真」を載せたり、関西発行の地方版限定で「京都では『先の戦争』といえば応仁の乱」といった冗談話を織り込んだり。中公新書の硬派なイメージをやや逸脱し、「やわらかい」アピールを心がけた。
とはいえ、売れた要因については、「いくつか考えられるものはありますが、いずれも決定的ではありません」。「読者が何のために読んでいるのか、むしろこちらが知りたいくらいです」と語る。
年末年始の休暇中にも売り上げが落ちなかった『応仁の乱』。2017年は、乱の始まりから550年の節目の年になる。