ソウルの日本大使館前に設置された従軍慰安婦をモチーフにした少女像の問題について、韓国政府が「適切に解決されるよう努力する」とした2015年12月の日韓合意が、風前の灯だ。
釜山の日本総領事館前の路上に市民団体が慰安婦像設置を計画し、道路を管理する権限を持つ地元自治体が一度は撤去したものの、国内世論の反発に屈する形で結局は黙認。2016年12月31日に除幕式が行われた。朴槿恵(パク・クネ)大統領は12月9日に国会で弾劾訴追されて職務停止状態で、政権は「死に体」。現時点で韓国側に慰安婦像の撤去を期待するのはきわめて厳しい状況だ。
「公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知」
15年12月28日の日韓合意では、日本政府が元慰安婦の女性を支援する財団設立のために約10億円を拠出することを前提に、慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」としていた。慰安婦像についても、
「韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する」
と言及していた。
ところが、16年12月28日には市民団体が釜山の日本総領事館前に像を設置。道路の権利権限を持つ釜山市東区は同日中に、いったんは像を撤去・押収したものの、区には抗議の電話やメールが殺到。これが影響したのか、聯合ニュースによると、区は30日に一転して「市民団体が設置するのを妨げない」と設置を黙認。翌31日に除幕式が行われた。
菅長官「きわめて遺憾」
こういった状況について、朝日新聞は17年1月1日朝刊で、
「日韓合意に基づき10億円支払うなどしてきた日本政府の対応には、足元からも『まるで「振り込め詐欺」だ』(首相側近)との不満もくすぶる」
などと日本政府内の不信感を伝えている。菅義偉官房長官も1月5日の会見で、釜山の慰安婦像設置について「きわめて遺憾」だとした上で、
「本件は日韓関係に好ましくない影響を与えるとともに、領事関係に関するウイーン条約に規定する領事機関の威厳等も侵害するものだと考えている。このウイーン条約から照らしても、きわめて大きな問題があると考えている。政府としては、早急に撤去するように引き続き韓国政府や関係自治体に強く申し入れをしていきたい」
などとして引き続き韓国政府に対して撤去を求めていく考えだ。
韓国世論は59%が合意「破棄しなければならない」
ただ、現時点で韓国政府にできることは必ずしも多くない。聯合ニュースによると、韓国外務省の趙俊赫(チョ・ジュンヒョク)報道官は1月3日の会見で、
「外国公館の保護と関連した国際慣行という側面からも慎重に判断する必要がある」
と述べるにとどめ、朝日新聞の「振り込め詐欺」報道についても
「日本メディアの報道についていちいちコメントすることはないと思う」
と言及を避けた。
日韓合意に対する韓国世論の反発は強まるばかりだ。世論調査会社「リアルメーター」が16年12月28日に行った世論調査では、合意を「破棄しなければならない」との回答が59.0%にのぼり、「維持しなければならない」の25.5%を大きく上回った。
合意直後の15年12月30日の世論調査では、合意が「間違い」だとする回答は50.7%と過半数だったが、「よくやった」という回答も43.2%あった。この1年の韓国の政局の混乱にともなって、合意への評価も低くなっていることが読み取れる。