広辞苑によれば、お賽銭はもともと、神仏へのお礼として上げるものだったという。つまり、過去の祈願が叶ったことへの感謝の印、要するに「後払い」のシステムだった。
時代が変われば、お賽銭も変わる。2017年の今、その変化を体現しているのが、東京・港区の愛宕神社だ。この神社では、電子マネー「楽天Edy」でお賽銭を上げることができる。
チャリーンの代わりに「シャリーン」
2016年1月4日13時前、神社の境内には、敷地をほとんど埋め尽くす行列ができていた。
愛宕神社は、虎ノ門駅にもほど近い、東京の中心部にある神社だ。徳川家康が江戸の街を築いたときに創建されたから、その歴史は400年以上になる。
公式サイトによると、ご利益には「火に関するもの、防火、防災」「商売繁昌」「恋愛、結婚、縁結び」といったものに加え、「印刷・コンピュータ関係」というものも。そのせいか、参拝客には、スーツ姿の男女も目立つ。近所で働くビジネスパーソンだろう。
1時間半ほど並んで、ようやく神前にたどり着くと、通常の賽銭箱の隣に、ロゴ入りの小ぶりな白木造りの箱が置いてある。これが、話題の「Edy賽銭箱」だ。2017年は、4日の一日限定、朝8時~日没のみの設置である。
「へえ、Edyでお賽銭上げられるんだって」
参拝客から、時々驚きの声が上がる。
順番が来たので、記者もこちらでお賽銭を上げることに。まず、左側のモニター付きテンキーで、額を入力する。1円単位で指定が可能だ。確定ボタンを押してから、右側のリーダーにカードをかざす。小銭を投げ込むチャリーン、の音の代わりに、「シャリーン」と決済音が響いた。
後は、通常の参拝と同じだ。
2014年から実施、三木谷社長らが毎年参拝
それにしても、どうしてこんな取り組みが?
愛宕神社が「Edy賽銭箱」の設置を始めたのは、2014年から。Edyの提供元・楽天からの提案でスタートした。
広報担当者によれば、以前から楽天では毎年、愛宕神社で三木谷浩史社長ら役員の初詣を行っている。
「こうしたご縁から、現金以外のお賽銭の方法としてご提案しましたところ、ご快諾をいただきました」
端末自体は通常の店舗などで使っているものと同じだが、紹介したような賽銭箱風の外装を楽天で作成し、神社に提供している。
「参拝者の方にも都心部の方が多いので、電子マネーも抵抗なく使っていただけているようです」
日本銀行の統計によれば、2008年から2015年までに電子マネーの決済件数は約4.5倍、決済金額は約6倍に達している。2017年も、その普及の動きはますます進む見込みだ。
とはいえ、記者が見た限りではEdy賽銭箱に挑戦する参拝客はまだまだ少数派だ。また、現在のところこうした取り組みを行っているのは愛宕神社のみ。「使いたい」という相談なども、今のところ具体的にはないという。