「店員さんすげえ カニ浮いてる」――。あるツイッターユーザーが、こんなコメントを添えて投稿した1本の動画に、多くのネットユーザーが「まんまと騙される」という珍しい騒動があった。
話題の動画は、スーパーの鮮魚コーナーとみられる場所で、若い男性店員が「カニを浮遊させる」手品を披露する内容だ。この動画にネット上は「どこのスーパー!?」「店員は何者だ」などと大騒ぎとなったが、実はこれ、鳥取県が企画した「ジョーク動画」だった。
「動画の内容はあくまでフィクションです」
鳥取県が2016年12月18日に公開した「カニ浮遊動画」。県の特産品のカニをアピールするために、地元出身の映像監督・森翔太さんが制作したジョーク動画だ。
その内容は、スーパーの男性店員に扮したプロのマジシャンが、売り物のカニを「手品」で浮かせる様子をおさめたもの。動画をプロデュースした制作会社「inbloom(インブルーム)」の田中洋展(ひろのぶ)さん(33)はJ-CASTニュースの21日の取材に、
「動画の内容はあくまでフィクションです。実際にマジシャンを起用して撮影したのは事実ですが、現実にはこんなパフォーマンスをしているスーパーはありません」
と話す。
だが、こうしたジョーク動画をめぐって、インターネット上には、
「実在するスーパーの店員が、カニを浮かせるパフォーマンスを実際に店頭で行った」
と「勘違い」するユーザーが続出している。実際、ツイッターやネット掲示板には、
「これ、どこのスーパー!?」
「いい宣伝になっとる」
「こういうのは少し時給に加算してあげてもいい」
などと、すっかり信じ切った様子の書き込みが数多く出ている。
いったいなぜ、プロの映像監督が制作したジョーク動画を、「現実」だと信じ込むユーザーが続出したのか。その理由は、動画がネット上で拡散した経緯にあった。
公式は注目集めず、「転載動画」が大拡散
この「カニ浮遊動画」、なぜか鳥取県の公式Youtube上ではほとんど注目を集めていない。再生回数を見ても、たった660回(21日17時時点)にとどまっている。
実は、インターネット上で注目を集めたのは、あるツイッターユーザーが19日に投稿した「転載動画」の方だった。このユーザーは、
「ん!?!?!?店員さんすげえwwwwカニ浮いてる」
といったコメントを添えて、鳥取県の公式Youtubeに掲載された動画を「転載」する形でアップロード。この投稿は21日午後時点で4万回以上リツイートされるなど、ネット上で爆発的に拡散された。
この投稿では、動画の「転載元」についての説明が一切なかったため、動画の内容が「本当」と勘違いする人が大量に出ることになった。事実、一般のネットユーザーだけでなく、投稿には国内外のマスコミからも「取材依頼」が寄せられたほどだ。
公式動画が再生されず、一般ユーザーが「転載」した動画だけが広まったことについて、鳥取県観光戦略課の担当者はJ-CASTニュースの取材に対し、
「おおよその状況は把握していますが、こちらとしてはありがたいという気持ちしかありません。どういう形であれ、多くの方に動画を見て頂けるのはありがたいことです」
と話す。また、先述した動画プロデューサーの田中さんも、
「監督の森も含め、拡散して頂いたことは大変ありがたく思っています。動画を転載されたユーザーさんとは連絡を取りましたが、あまりの反響にとにかく驚いていたようでした」
と話す。その上で、今回の現象については「とにかくネット上で『バズる』(編注・拡散のこと)ことが狙いだったので、こちらの思惑通りと言ってもいいのではないでしょうか」としていた。