小中学校の運動会で行われる「組体操」をめぐり、各地の自治体が安全対策に力を入れる一方で、年間で組体操の2倍以上の事故が起きている「跳び箱」の危険性には、あまり関心が集まっていない。
日本スポーツ振興センター(JSC)の調査によれば、2015年度には跳び箱による事故は小学校だけで1万4887件起きている。そのうち骨折や靭帯損傷を伴う大きな事故は6117件で、事故全体の41.1%にも及ぶ。
小学校だけで年間1万5000件の事故
小学校の学習指導要領では、体育の授業で跳び箱を含む「器械体操」を行うことが義務付けられている。そんな跳び箱での事故は、JSCが調査を始めた11年度以降、毎年1万4000件以上(数字は小学校、以下同)起きている。競技種目別で見ても、事故の発生件数が最も多いのは跳び箱だ。
さらに、JSCが取りまとめた過去11年間のデータでは、跳び箱によるけがで障害が残った小学生は19人。2011年には、北海道網走市の高校1年生が体育の授業中に跳び箱の跳躍を誤って腹部を強く打ち、内臓損傷で死亡した事故が起きた。
こうした跳び箱による事故は、いま盛んに「安全対策の必要性」が叫ばれている組体操よりもはるかに多い。実際、15年度の組体操による事故件数は5629件で、跳び箱に比べると半分以下だ。
跳び箱という運動と、各学校や教育委員会の判断で実施の有無が決まる組体操とでは、競技を行う学校数や授業時間に大きな差があり、単純な比較はできないが、骨折・靭帯損傷を伴う大きな事故の割合も、組体操では事故全体の29.2%(1648件)で、跳び箱よりも低い数字となっている。
そのほか、組体操の事故では頭部や首など危険な部位のけがの割合が多いとされるが、過去10年間で死亡事故は1度も起きていない。
スポーツ庁「跳び箱に絞った安全対策は行われていない」
このように、見方によっては組体操よりも「危険」ともいえる跳び箱だが、その安全対策については個別の取り組みが進んでいないのが現状だ。スポーツ庁学校体育室の担当者は16年11月25日のJ-CASTニュースの取材に対し、
「学校の体育全般については、各教育委員会を通じて事故防止の通知や、指導方法の研修を行っています。ですが、『跳び箱』に絞った取り組みはこれまでに行ったことがありません」
と話す。
そのほか、危険性の高い「ピラミッド」や「タワー」などの大技を全国に先駆けて禁止するなど、組体操の安全対策に力を入れている大阪市教育委員会でも、跳び箱については 「個別の安全対策は行っていない」という。
また、同じような組体操の安全対策を、県単位で推し進めた静岡県教育委員会健康体育科の担当者も、
「幸いにも県内で大きな事故が報告されていないことや、スポーツ庁からの通知がないため、これまでに跳び箱に関する個別の注意喚起を行ったことはありません」
と取材に話していた。
授業中の跳び箱による事故が多い理由について、体操競技や器械運動を専門とする男性大学教授は取材に対し、
「小学校では器械体操を専門的に学んだ教員がいないため、競技における危険なポイントを全て把握するのが難しいことが理由の一つです。また、クラス単位で授業を行うので、教員の指導が行き届かない部分もあるのではないでしょうか」
と話している。