スタジオジブリの宮崎駿監督に密着したNHKのドキュメンタリー番組「NHKスペシャル 終わらない人 宮崎駿」が2016年11月13日に放送された。
宮崎さんが番組中で長編アニメ制作に再び意欲をみせたことが話題を呼ぶ一方、インターネット上では、ドワンゴ・川上量生会長のプレゼンに不快感を示した場面が注目を集めている。
人工知能によるCGで「気持ち悪い動き」披露
2013年に長編アニメからの引退を表明した宮崎さんは、その後、自身初となるCGを使った短編アニメ「毛虫のボロ」の制作に取り組んでいる。番組では、同作の制作現場に2年間にわたって密着。若きCGアニメーターたちと触れ合い、時に新たな表現の壁に直面しながら、悩み、前進する姿を追った。
その中で、ドワンゴ会長の川上量生さん率いるCGチームが自社の技術を説明しに訪れる場面があった。人工知能で動きを学習させたCGを見せに来たのだ。プレゼンでは、人間の形をしたキャラクターが体をくねらせ、頭を足のように使うなど不自然な動きで移動する映像が紹介された。
川上さんはこれを「これは『早く移動する』ことを学習させた。基本は痛覚とかないし、頭が大事という概念がないので、頭を普通の足のように使って移動している」と解説し、
「この動きがとにかく気持ち悪いんで、ゾンビゲームの動きに使えるのではないかと(考えている)。こういう人工知能を使うと、人間が想像できない、気持ち悪い動きができるんじゃないか」
とアピールした。
すると宮崎さんは少し間をおいてから、ある友人男性のことを話し始めた。男性には身体障害があり、筋肉がこわばるため、ハイタッチすることも大変なのだという。
「極めて何か生命に対する侮辱を感じます」
宮崎さんは「彼のことを思い出してね。僕はこれを面白いと思って見ることできないですよ」と指摘すると
「これを作る人たちは痛みとかそういうものについて何も考えないでやっているでしょう。極めて不愉快ですよね」
と一蹴。さらに
「そんなに気持ち悪いものをやりたいなら勝手にやってればいいだけで、僕はこれを自分たちの仕事とつなげたいとは全然思いません。極めて何か生命に対する侮辱を感じます」
と怒りをにじませた。
これにはCGチーム一同沈黙。困った表情の川上さんがようやく口を開き「あの...これってほとんど実験なので、世の中に見せてどうこうというものじゃないんです」と釈明したが、宮崎さんは「それは本当によく分かってるつもりですけど」と返し、依然納得できない様子だった。鈴木敏夫プロデューサーからもCGチームに対して「どこにたどり着きたいんですか?」との質問が飛んだ。
宮崎さんの一連の「説教シーン」はネット上で大きな反響を呼んだ。「ゾンビみたいなCGを知り合いの障害者に照らし合わせたのも偏見に思えた」「障害者に例える宮崎監督も障害者に対して失礼な気もする」といった声も少なくないが、「スカッとした」「凄く格好よかった」「厳しい言葉だけど本当にそう思いました」といった称賛の声が目立つ。
コミックエッセイ「中国嫁日記」の作者・希有馬(井上純一)さんはツイッターで「宮崎駿はアニメーターで、その原点は感情移入にある。何もないところに感情移入するから、ただの線が生命を帯びる。線の連なりが人間になる。それはAI制御された動画にも及ぶ」などと怒りの背景を分析した。
川上さんは2011年、鈴木プロデューサーに弟子入りする形でドワンゴ会長のままスタジオジブリに入社している。そのため、今回のやりとりは宮崎さんと川上さんの2人の人間関係を踏まえて捉えるべきだとする声もある。