豊洲市場の問題は徐々に進展している。構造上の安全性と衛生上の安全性の二つが指摘されていたが、2016年10月25日の都の「市場問題プロジェクトチーム」で、構造上の安全性は問題なしという意見がでた。
この議論の様子は、ネット上(都政改革本部HPの動画)で確認することができる。多少専門的な議論であるが、流れは誰でも把握できるだろう。この会議が面白いのは、構造上の問題があると批判してきた人と、実際の設計担当者がガチンコで議論していることだ。
小泉政権時の「お白洲」
批判者は、森山高至氏と高野一樹氏だ(会議の座席表もネットで確認できる)。いずれも、テレビ出演やブログで構造上の安全性を批判してきた。
ところが、会議では、実際に設計を担当した日建設計の人にかなりやり込められていた。今後も、専門的な議論を続ける模様だが、構造上の安全性は問題なしという方向で結論が出るのではないか。
この会議を見て、かつての経済財政諮問会議の「お白州」を思い出した。筆者は、小泉政権時、財務官僚であったが、当時内閣府に出向し竹中平蔵大臣直轄の経済財政諮問会議特命室参事官であった。それまでの役所の慣例であれば、そこは経済財政諮問会議の事務局なので、同会議を意のままに操っていただろう。しかし、竹中大臣は違った。
筆者が、いろいろな政策案を竹中大臣に相談すると、答えはいつもおなじで「面白そうだね。今度の経済財政諮問会議で議論しよう」だ。けっして、筆者の意見をその場で採用することはなかった。
そして、経済財政諮問会議が「お白州」になる。「お白州」というのは、竹中大臣自身が言っていた言葉である。経済財政諮問会議は、資料も議論も直ぐ公開される。会議では民間議員、閣僚同士のガチンコ議論が当時は行われていた。筆者の提案したものは民間議員ペーパーになり、閣僚からの反対意見を招いた。ある時、財務大臣と経産大臣が猛烈な反対をしたが、そのロジックは論旨不明だった。そうした閣僚の反対意見を聞いていた小泉総理が、両大臣に対し「役人の言いなりなるな」と机を大きく叩いて、会議を終わりにしてしまった。それは総理が意図したものだが、その場は険悪な雰囲気だった。
一方的な意見を垂れ流したマスコミは情けない
その後、物騒なペーパーを書いた筆者は怒られるのを覚悟していたが、竹中大臣は論点が明確で結論の方向性が出たと評価してくれた。もちろん、筆者の提案がすべて「お白州」で賛同を得たわけではなく、ボツになったものもあった。
「お白州」では、提案する方もそれを批判する方も、公開の場で対等である。これは裁判みたいなものだ。
豊洲市場の構造上の安全性についても、森山氏と高野氏の批判だけを聞いているともっともに聞こえるが、その反対意見の日建設計の担当者と議論すると、どちらがよりまともかが、素人にもだいたい分かる。
小池都知事は、議論の公開を重視している。少なくとも、都庁内での議論を透明化し、いわゆる御用審議会を「お白州」状態にしたことは評価していい。為政者は、良い意見をとればいいのであって、その意味で公開の場を設定するのは正しい。
森山・高野氏と実際の設計担当者の間で「市場問題プロジェクトチーム」という「お白州」で議論すれば、どちらかが「公開処刑」になるが、小池都知事としてはいい結論を選べる。
それにしても、森山氏らを使い続けて、豊洲市場は構造上の安全性に問題ありとの一方的な意見を垂れ流したマスコミは情けない。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)、「日本はこの先どうなるのか」(幻冬舎)など。