会社をリタイアした高齢者が、ギリギリの生活を余儀なくされる「老後破産」が深刻さを増しているという。生活保護を受ける高齢世帯はすでに受給世帯の5割以上に上るとのデータもある。なぜ老後はこれほど厳しくなっているのだろうか。
厚生労働省の調査によれば、生活保護を受給している世帯のうち、65歳以上の高齢者世帯は今春時点で80万世帯を超え、受給世帯全体の約半数を占めている。食べることも難しく、最低限の生活を送れない高齢者世帯は今後も増える可能性があるとの見方は強い。
年金のほかに「2000万円~4000万円」は必要
今や「普通のサラリーマンが老後破産に陥っても不思議ではない」(ファイナンシャルプランナー)と話す専門家が多いが、そんな状況になっている背景には何があるのか。
総務省の家計調査(2015年)によれば、夫婦いずれも65歳以上の世帯では、主に年金が占める毎月の収入は平均約21万円。これに対し、食費や光熱費、住宅費などの支出は月約27万円に上り、普通に生活しているだけで、月約6万円もの赤字となってしまう。そして、その赤字額は10年前に比べ、2倍以上に膨らんでいるという。
バブル期以前の好景気に沸いた時代に比べ、定年退職時に受け取れる退職金は減少している。リタイア後のサラリーマンの生活を潤してきた企業年金も減額され、公的年金の支給時期も引き上げられている。ある程度の貯蓄や家賃収入など定期的な所得を持たない高齢者なら、月6万円の赤字を埋めることはできず、長生きすればするほど破産の道に進んでしまうのは当然だ。
60歳の高齢夫婦が90歳まで生きた場合、生活するために必要なお金の総額は、年金のほかに2000万~4000万円程度は必要だという見方もある。生活水準などによって異なるため、6000万~1億円は必要というケースもあるのだ。
「どうにかなると思っていたら、どうにもならない時代」
一方、家計調査や金融の専門家の多くは「現役時代に収入が多かった人ほど、老後破産に陥るリスクがある」とも指摘する。収入が多いから問題ないと思い込み、返済が厳しいローンを組んで高級住宅を買ったり、子どもを私立の名門校に通わせたりする結果、老後を支えるための貯蓄に回すお金がなくなるというのだ。
「そういった人たちは、退職後も多額のローンが残っていて生活を圧迫したり、見栄などから生活レベルを落とすことができなかったりし、最後は生活に行き詰まってしまう」とあるファイナンシャルプランナーは話す。
老後は年金や退職金に支えてもらおうという意識は捨てなければならない。そして、高額な住宅を購入するなどの過大な支出は抑え、地道に貯蓄して老後に備えるしかないのが現状だ。「どうにかなると思っていたら、どうにもならない時代」と多くの専門家は警鐘を鳴らしている。