居酒屋大手のワタミがパート・アルバイトの時給を、10~25円引き上げた。時給の引き上げ比率は平均1.31%で、約1万人が対象となる。
年末の忘年会シーズンを控え、外食業はこれから書き入れ時を迎える。人手不足感が広がるなか、労働条件を改善して働きやすさをアップすることで、パート・アルバイトの確保に努める。
全店舗で最低賃金を上回る水準に
ワタミによると、パート・アルバイトの賃金引き上げは、全国で最低賃金が2016年10月1日に見直されたのに合わせて行ったもので、グループで働く正社員2000人弱と約1万人のアルバイトが加入する労働組合「UAゼンセン ワタミメンバーズアライアンス」と、経営側との団体交渉で合意した。
1日付で、時給を10~25円引き上げ。同社が運営する外食店は、「和民」や「坐・和民」「わたみん家」など約500か店で、このうち、「この1年間に時給を改定していなかった店舗が約300か店ありましたが、今回の最低賃金の見直しを機に一律で10円引き上げました。これまでもほとんどの店舗では最低賃金を上回っていましたが、(今回の引き上げで)すべての店舗で上回る水準になりました」としている。
たとえば、東京・新宿にある「坐・和民 新宿大ガード店」では、店内の清掃やキッチンの仕込み作業を担当する仕込スタッフの場合で「1000円」、簡単な調理や洗い場の片づけなどを担当するキッチンスタッフの場合は「950円」(いずれも研修時は932円で、東京都の最低賃金の水準)となっている。
居酒屋などの外食業は、深夜営業なども少なくなく、賃金の割に仕事内容がキツく、過剰労働などの「ブラック企業」のイメージから人材不足に陥りがちだった。ワタミはその代表格ともみなされ、2013年に「ブラック企業大賞」を受賞している。
ワタミは今回の時給水準について、「他社もほぼ横並び」とみていて、パート・アルバイトの人材確保について、「気持ち、モチベーションを高めてもらうためにも、より働きやすい環境をつくっていくほかに手はないと考えています」と話す。
同社は15年から「初期教育」に力を入れ、専属スタッフを配置して教育に当たったり、マニュアルをモバイル化したりして、かつてのイメージ払拭に躍起になっている。「これまでの店長の教育では、細部にまで目が行き届かないところがありました。そこを改善しました」と、店長クラスの仕事の負担を軽減しながら取り組んでいるという。
忘年会シーズン前に人材確保
求人情報会社のリクルートジョブズが2016年9月20日に発表した「アルバイト・パート募集時平均時給調査」によると、8月の三大都市圏(首都圏・東海・関西)の平均時給は全体で、前年同月に比べて19円(2.0%)増えて988円(前月比1円、0.1%増)となった。
職種別では、「製造・物流・清掃系」(平均時給977円、前年同月比24円、2.5%増)をはじめ、すべての職種で前年同月よりもプラス。「フード系」の8月の時給は平均953円で、前年同月比で16円、1.7%増えた。「製造・物流・清掃系」や「販売・サービス系」(20円、2.1%増)に次ぐ高い伸びだった。
ただ、前月比に限ると、他の職種が軒並み横ばいか減少したのに対して、フード系だけが4円、0.4%増とプラスを確保した。
さらに、首都圏の平均時給は前年同月比18円(1.8%)増の1028円で、「フード系」は20円(2.0%)も増えて1001円を付けていた。
リクルートジョブズは、「外食業は(現在の統計になった)2011年1月以降、5年8か月連続で右肩上がりを続けています。毎年、繁忙期に当たる忘年会シーズンは多くの人材を確保する必要がありますが、仕事になれてもらうことを考えると、9~10月に採用、11月には研修を終えるような流れです」と話す。つまり、この10月が人材確保の「勝負」ともいえるわけだ。
そのため、時給の引き上げはもちろん、一般に居酒屋などは学生アルバイトが多く働くが、最近は「シフト体制を細分化して、主婦やシルバー層でも働ける態勢を敷いているところは少なくありません」と、どこも工夫を凝らしているという。