豊洲新市場について有識者が検証する東京都の「市場問題プロジェクトチーム(PT)」が2016年9月29日に初会合を開き、委員からは、たまり水のある地下空間について擁護する意見が相次いだ。
盛り土をしなかった問題を受けて、小池百合子知事は土壌汚染対策を話し合った中央卸売市場主催の「専門家会議」を再設置した。これに対し、費用や設計上の問題を含めて総合的に議論するのが、都政改革本部主催の「市場問題PT」だ。
「すごい出費と都民から誤解」と指摘
PTの会合は、弁護士で青山学院大教授の小島敏郎氏が座長を務め、都のホームページ上で中継された。この日は、小島氏が冒頭で、まず築地市場からの移転経緯を説明した。そのうえで、地下空間の安全性の問題のほかに、入札を重ねるなどして総工費が5884億円にも膨らんだことや、冷蔵庫の重みなどで新市場の床が抜けるのではと心配が出ていることなども検証する考えを示した。
地下空間の問題では、建築研究所代表の佐藤尚巳氏が専門委員として持論を展開した。
佐藤氏は、「大きな空間ですごい出費がある」と都民らから誤解されていると指摘した。
その説明によると、地下には水道やガス、電気などの配管が通っており、巨大な空間で水を100メートル流すには、空間は3メートル以上の高さがないといけない。また、こうした設備は、20~25年で更新時期が来るが、空間を作ったことで50~70年先でも更新して使える。もし盛り土をしたうえで配管用の「地下ピット」を作ると、200~300ぐらいの小部屋が並び、設備の保守点検は不可能に近いという。
そもそも盛り土が1リューベ(立法メートル)当たり1万円だとして、盛り土をすれば100万リューベ分の100億円のほか、さらに掘って地下ピットを作るのに75万リューベ75億円かかる計算になり、総額で175億円もの出費になってしまうとした。
「コミュニケーションに欠けていた」と都に批判も
佐藤尚巳氏は、盛り土をして地下ピットを作るやり方は無駄だと言われるとし、「どっちが得なのか、都の技術担当者は考えていたと思う」と述べた。そのうえで、「地下空間はコストのかかった空間ではない」と結論づけ、「これを作ったのは英知であり、決して責められることではない」と都の技術担当者を擁護した。
また、たまり水について、地下ピットならなかなか気づかないが、地下空間を残したことですぐに発見して調査できたとした。都の地下水管理システムが作動し、監視カメラで24時間モニタリングすれば、完全性確保は十分に可能だと佐藤氏は言う。そして、都の内部で情報がシェアされていなかった問題は別にして、「地下空間は、非常に正しい選択だった」と断言した。
市場問題PTの会合では、東工大教授の時松孝次氏も専門委員として、同様に地下空間を支持した。盛り土を埋め立て地の軟弱な地盤に行うと問題が生じるとして、「盛り土を避けた方がいいというのは、技術者としては選択肢の1つと考えるのではないか」と指摘した。
とはいえ、ほかの専門委員からは、都に対し、「コミュニケーションに欠けていた部分あった」「ランニングコストがかかりすぎ、設計に無理がある」「人口減で水産物などの取り扱いが減っているのに、業者がコストを負担できるのか」と疑問や批判が出ていた。
なお、次回の会合は、10月の後半になる予定だ。座長の小島敏郎氏は、新市場の設計を担当した日建設計に説明してもらいたい意向を示した。