「日本が『いらすとや』だらけになってる」――。フリー素材サイト「いらすとや」が配布しているイラストが、ネット上で「どこでも見かける」「確かに最近増えすぎ」などと大きな話題を集めている。
だが一方で、こうしたフリー素材サイトの「負の側面」に注目した意見も目立ち始めた。インターネット上で、「単価の安いイラストレーターの仕事を奪いまくってる」「軒並み仕事持って行かれてる」などと業界に与える悪影響を不安視する声が数多く出ているのだ。
商用・非商用を問わず基本的に無料
イラストレーターのみふねたかし氏が運営する「いらすとや」は、「かわいいフリー素材集」をうたうフリー素材サイト。配布されているイラストは、商用・非商用を問わず基本的に無料で使用できる。可愛らしいほのぼのとした絵柄が特徴で、季節行事から時事ネタまで多種多様なイラストが公開されている。
そんな「いらすとや」が賛否を集めることになったのは、J-CASTニュースの姉妹サイト「Jタウンネット」が2016年9月24日に配信したコラム記事がきっかけだ。「いつの間にか、日本が『いらすとや』だらけになってる」というタイトルで、自治体の発行物や飲食店のメニューなどでの「使用例」を紹介する内容だ。
記事では、厚生労働省のリーフレットや民進党のパンフレットにまで「いらすとや」の素材が使用されていることを紹介。これには、「本当によく見るようになった」などと共感が広がった。さらに、同サイト編集部が「目撃談」を読者に募集したところ、公開からわずか2日で30件近くの使用例が写真付きで寄せられたという。
このような状況から、「今日本で一番有名なイラストレーターでは」との声も囁かれるほど話題を集める「いらすとや」だが、一部ではネガティヴな意見も目立ち始めた。ツイッターやネット掲示板には、
「単価の安いイラストレーターの仕事を奪いまくってる」
「テレビ番組とかでもいらすとやさんの絵が増えてきてるけど、テレビ局くらいちゃんとイラストレーターに発注してや...」
「タダが当たり前になってしまうとイラストレーターがいなくなってしまう」
といった声が数多く出ている。
「誰でも描けるようなイラストの需要が...」
一方で、「いらすとやを使っているところはそもそもイラストレーターに発注していなかったところだと思う」「イラストレーターとは仕事被らんだろ」といった冷静な意見も少なくない。
では実際、「いらすとや」をはじめとしたフリー素材サイトの台頭は、本当に「イラストレーターの仕事を奪っている」のだろうか。
浅田次郎氏の「鉄道員(ぽっぽや)」の表紙デザインなどで知られる有名イラストレーターの井筒啓之氏(61)は26日のJ-CASTニュースの取材に対し、
「実感としては、そこまで大きな影響はないと思います。ただ、いわゆる『駆け出し』のイラストレーターにとっては厳しい状況になっているのではないでしょうか」
と話す。井筒氏によれば、そもそも「雑誌や広告などで使われるカットイラストの発注数は、リーマンショック頃(編注・2008年)から減ってきていた」という。そうした状況に加え、誰でも簡単にアクセスできるフリー素材サイトが台頭したこともあり、
「イラストレーターに発注しなくても代用がきく、いわば『誰でも描けるようなイラスト』の需要がなくなったのでしょう」
と分析する。
また、井筒氏は「フリー素材サイトが新しいタイプの仕事を作り出していることも確かです」とも明かす。実際、自身の作品を一部のフリー素材サイトに販売することで報酬を得ているイラストレーターも出ているという。