LGBT(セクシュアル・マイノリティ)に対応する商品やサービスが広がっている。電通ダイバーシティ・ラボの調査によると、その市場規模はなんと6兆円に達するという。
東京海上日動火災保険は、同性婚のパートナーを「配偶者」として扱う保険商品の認可を、金融庁から得た。LGBTに対応した火災保険や自動車保険を、2017年1月に売り出す。
東京海上日動、損害保険で初の認可取得
ここ数年、自身がLGBTであることを公表する人が増え、また、人それぞれの生い立ちや生活環境、個性、価値観、ライフスタイルなどの違いに由来する、それらの多様性や権利は尊重されるべきという風潮が世界的に高まっている。
東京海上日動火災保険は2016年8月10日、同性婚のパートナーを「配偶者」として扱う火災保険や自動車保険を開発したと、J‐CASTニュースの取材に対し認めた。10日付朝刊で日経新聞が報じていた。現在、システム変更や販売代理店への説明会などの準備中で、万一のときに同性婚のパートナーも「配偶者」と同じように補償を受けられる、LGBT向けの火災保険や自動車保険として2017年1月に販売する。
たとえば、現行の火災保険では契約者の配偶者の家財が焼けた場合、ほぼ自動的に被害が補償されるが、同性婚のパートナーは配偶者とみなされず、持ち物が焼けても補償を受けられない。また、自動車保険の場合でも、現行の「運転者割引」や「無事故割引」は契約者本人と、配偶者とその家族が対象なので、同性婚のパートナーは対象にはならない。
東京海上日動は、「配偶者の定義を変更することで、同性婚のパートナーでも補償や割引サービスなどを受けられるよう、対象に加えました」と話している。
保険に加入するには、自治体が発行する「パートナー証明書」と、同居の事実を示す住民票を提出。自治体がパートナー証明書を交付していない場合には、第三者の署名を含めた確認書の提出が必要になる。
生保では先例
LGBT向けの保険商品は、すでに生命保険会社で取り扱っているが、東京海上日動は「損害保険の場合、約款の変更が伴うので金融庁の認可が必要になります」と説明。LGBT向けの保険商品として、「認可を受けたのは初めてではないか」(広報部)という。
LGBT向け保険商品で先陣を切ったのは、2015年11月の東京都渋谷区の「パートナーシップ証明書」の交付開始とともに対応したライフネット生命保険だ。それまで保険金の受取人には戸籍上の配偶者か2親等内の親族が原則。同姓婚のパートナーが保険金を受け取ることはできなかった。
同社の場合、それまでも事実婚も一定の条件で異性であれば認めてきたが、それをパートナーシップ証明書と同居を証明する住民票などを提出すれば、同性婚のパートナーでも保険金の受取人として認めることにした。
ライフネット生命は、「世の中が変わっていくときに、保険もその変化に対応していく必要があると考えました」と、対応のきっかけを話す。インターネット専業の生命保険会社であることから、パートナーシップ証明書を交付していない自治体からも加入できるようしたことで問い合わせ件数も多く、申し込み状況について「沖縄県など全国各地から、すでに数十件の申し込みをいただいています」という。
こうした動きは、すでに日本生命保険や第一生命保険、住友生命保険、アクサ生命保険など生保大手にも拡大。そのうちの1社、第一生命では「16年6月までに約50件の問い合わせがあり、実際にLGBTの方が受取人になったケースは数件ありました」と話す。
広がりみせる「パートナーシップ証明」
国内では、2015年4月に東京都渋谷区が「渋谷区男女平等および多様性を尊重する社会を推進する条例」を施行。それに基づき、同11月には「パートナーシップ証明」の交付を開始。その後も東京都世田谷区や兵庫県宝塚市、三重県伊賀市で始まり、2016年7月には沖縄県那覇市でも交付を開始、広がりをみせている。
渋谷区によると、16年8月10日時点で交付を受けたLGBTのカップルは12組いるという。
一方、電通のダイバーシティ課題対応の専門組織、電通ダイバーシティ・ラボが20~59歳の全国6万9989人を対象に実施した「LGBT調査2015」(2015年4月7~8日調査)によると、調査対象者のうち、LGBT層にあたる人は7.6%だった。
さらに、LGBT向け商品・サービスの市場規模は5.94兆円と算出。家電やAV機器、家具・インテリア、化粧品やカルチャー活動などで一般のユーザー層より消費が活発としている。アクセサリーや情報通信、レジャーの市場も顕著だ。
保険業界以外でも、NTTドコモやソフトバンク、KDDI(au)は、自治体によるパートナーシップ証明書があれば、家族向けの割引サービスの適用を認めている。また、全日空(ANA)と日本航空(JAL)も、家族で共有できるマイレージプログラムを自治体のパートナー証明書や同居を証明する住民票などの提出を条件に、同性婚のパートナーも利用できるようにしている。
LGBTの認知度アップや権利保護への支援などの社会変化と、パートナーシップ証明書を交付する自治体の広がり、またLGBT世帯の平均年収が一般世帯の平均を大きく上回っているとの情報もあり、LGBT向け市場に注目する企業は増えているようだ。