「頼むからレスリングを実況してくれ」「なんで一人でずっとポエム語ってんの」――。
2016年8月19日早朝(日本時間)に行われた、リオ五輪レスリング女子53キロ級決勝。「絶対女王」吉田沙保里選手の「まさかの敗戦」に驚きが広がる一方で、テレビ中継を見ていたネットユーザーからは「実況がひどすぎる」とのバッシングが相次いでいた。
「私にとって3歳から磨いてきたレスリング」
「今!目の前で!!起こっている事を!!!実況しろよ!!!!」。こんな怒りの声が視聴者から出るほどの「迷実況」とは、いったいどんな内容だったのか。
吉田選手の試合を実況していたのは、日本テレビの河村亮アナウンサー(49)。女子レスリング決勝は日テレとNHK BS1の2局が放送していたが、試合の実況は日テレの制作で、どちらでも河村アナの実況が流れた。
実際の中継を見ると、14年に亡くなるまで吉田選手のコーチをつとめていた父・栄勝さんの話題が6分間の試合中に「何度も」出てくるなど、全体的に「感動エピソード」を重視した実況が展開されていた。河村アナは試合が始まるやいなや、
「はたして父とともに戦う6分間になるんでしょうか・・・力は2倍になるか!」
と声を張り上げる。吉田選手が攻勢にかかれば「タックル!攻めのタックル!これは父栄勝さんが教え込みました」「父親に教え込まれたタックルでいくか!」などと絶叫。こうしたエピソードを話していたばかりに、試合の動きを伝えることがおろそかになる場面もあった。
さらには、吉田選手になりきる形で、
「私にとって3歳から磨いてきたレスリング、タックルは父から、本当に教え込まれた...」
などと情感たっぷりに語るシーンすらあった。
試合終了後も、その勢いは止まらず、「栄勝さんに勝利を報告したかったその気持ち!」と繰り返し父親の話題に言及。試合後のインタビューで涙が止まらない吉田選手の姿には、「できれば吉田に、嬉し涙を流させてあげたかった!」と口にしていた。