第98回全国高校野球選手権大会で準々決勝戦を制し、2016年8月18日に4強に名を連ねた秀岳館高校(熊本代表、八代市)。
応援に駆けつけた同校吹奏楽部は、大会の日程と重なった吹奏楽コンテストの出場をあきらめ、甲子園応援を「取った」。しかし、ネット上では、その決定を「美談」として報じることへの批判が噴出。教員が生徒に「(応援に行くよう)圧力をかけた」という真偽不明の主張も飛び出し、大きな議論となっている。なぜ吹奏楽部は甲子園応援を選んだのか。吹奏楽部顧問に聞いた。
「コンテストに出たいと涙を流す部員」との報道も
秀岳館高校吹奏楽部は16年8月11日に予定されていた吹奏楽コンテストの南九州大会出場をあきらめ、甲子園までやってきた。
同校野球部の甲子園行きが決まったのは、コンテストの県予選を1週間後に控えた7月26日。静岡代表・常葉菊川高との初戦が8月12日にセッティングされ、吹奏楽部はコンテスト出場か甲子園応援か、どちらかを選ばなければならなくなった。難しい判断の中、吹奏楽部員は甲子園行きを選んだ。8月1日の県予選には、南九州大会に出ないということを伝えて出場し、「金賞」を獲得していた。
こうした吹奏楽部の決断は17日公開の西日本新聞電子版に「美談」として報じられ、ネット上で話題に。しかし、記事中に「『コンテストに出たい』と涙を流す部員もいた」といった一文があったためか、ツイッターを中心に
「美談風に記事にされているのに強い恐怖」
「なぜ美談?」
「酷い話なんじゃないの?」
「吹奏楽部の子たち可哀想」
と学校側への批判が寄せられた。
また、知り合いに同校の吹奏楽部員がいる、というある匿名ユーザーは「(生徒は)教員に言いくるめられた」などと主張した(アカウントはすでに削除)。このユーザーがアカウントを削除してもなお、「学校が生徒に圧力をかけた」といったタイトルのまとめ記事が真偽不明のまま拡散している状態だ。
「甲子園で吹けるなんてうらやましか」
いったい真相はどうなのか。吹奏楽部の顧問教員は8月18日、J-CASTニュースの取材に「学校側が甲子園の応援を部員に強制したことは一切ありません」と話した。
南九州大会を主催する全日本吹奏楽連盟から「県予選で勝ち上がれば、南九州大会に必ず出場しなければいけない」と念を押され、同校の教員は2時間半に及ぶ職員会議を実施。
「吹奏楽部はコンテストを優先すればいい。甲子園の応援は残った人間でやればいい。あとは生徒の意向を尊重する」
と結論を出した。これをうけ、3年生の吹奏楽部員6名を中心に話し合いがもたれた。最初はどっちつかずな部員が多かったものの、意見の違いは表面化せず、自然に甲子園応援でまとまったという。
学校側の結論に反してでも生徒が甲子園応援を望んだ理由は何なのか。
「うちは応援団もチアも、部活としては存在しません。チアは色んな部活の希望者が集まって結成されています。そのため、吹奏楽部が甲子園に行かないと応援がまとまらないわけです。『テレビ中継もある場で、吹奏楽もチアもないのはかっこ悪い』。生徒からはそんな意見も出たようです」
また、同校の吹奏楽部が、仮に南九州大会で勝ったとしても、そこから全国大会への出場はできないグループに入っていたことも影響したようだ。
「『コンテストはまた来年出られるけど、甲子園で吹けるのは県内の1校だけ』。そう部員は話していました。他校の生徒から『甲子園で吹けるなんてうらやましか』と声をかけられた部員もいるようです」
加えて、「経済的な問題」も生徒の決断を左右したと顧問は話す。
「熊本地震で、家の建て直しなどにお金がかかっている家庭もあります。南九州大会の沖縄遠征にかかる費用は1人8万円ほど。『苦しい』というのが本音だったのでしょう」
何はともあれ、自分たちの「意思」で甲子園へやってきた吹奏楽部員。次の準決勝戦で、決勝進出をかけた応援曲を演奏する。