社員の飛び降り自殺でビルの資産価値が下がったとして、東京地裁が入居企業に1000万円の賠償金をビルの所有会社に支払うよう命じたと毎日新聞が報じた。
ネット上では、「聞いたことがない」「無理筋ではないか」などと驚きの声が広がっている。
「精神的瑕疵」ビル販売額を1割引き下げ
毎日新聞サイトの2016年8月8日付記事によると、あるオフィスビルに入居している企業の男性社員が14年、外付け非常階段から飛び降り自殺した。ビル所有会社はビルを売り出していたが、「精神的瑕疵有り」と明記せざるをえず、販売額の1割に当たる約4500万円を引き下げてやっと売ることができた。
ビル所有会社は、飛び降り自殺で資産価値が下がったとして、入居企業に約5000万円の損害賠償を求めて提訴した。これに対し、入居企業側は、ビルの共用部分で自殺するとは予測できないため賃貸契約の注意義務に含まれない、マンションなどに比べれば資産価値への影響は限られているなどと主張し、請求の棄却を求めたという。
しかし、東京地裁では、自殺があったことから出入りする人にビルへの嫌悪感を抱かせてしまうとして、入居企業には「借りた室内や共用部分で従業員を自殺させないよう配慮する注意義務を負う」と判断。自殺による損害分は、1000万円に相当するとみなした。
マンションから飛び降り自殺したケースについては、自殺者の遺族にマンションの賃貸会社やほかの部屋の所有者から高額の賠償金が求められることは多く、ネット上のQ&Aサイトでも、こうした相談が多数寄せられている。
しかし、オフィスビルについては、ビル所有会社が自殺社員の出た入居企業に賠償を求めたといった報道はほとんどない。
「事故物件」の情報がネット上で検索できる時代
今回の賠償命令について、ツイッターなどでは、ちょっとおかしいのではないかと疑問や批判が次々に寄せられている。
「管理者責任って結構むちゃくちゃな要求だ」
「最後のいやがらせのために会社で自殺する人が出るな」
「共有部ならビル所有者の責任だろ」
一方で、「真っ当に労働させてれば会社で自殺するわけない」などと、入居企業の賠償責任を認めた判決の意味を推し量る向きもあり、様々な議論が出ている。
ツイッターでこの判決について発言した岡村久道弁護士は、J-CASTニュースの取材に対し、次のように指摘する。
「今回の背景には、事故物件の情報がネット上で検索できるようになり、物件価値が下がってしまっていることがあるのでは。しかし、従業員を自殺させないよう配慮する注意義務を負うというのは、聞いたことのないような判決です。これが一般論になると、企業は非常に特殊な義務まで負ってしまうことになります。どこまで一般化するべきかは、大きな議論になることだと思いますね」
岡村弁護士は、ビル所有会社も今後は厳しいことになりかねないと言う。
「所有会社側も、非常階段に出られなくしたりネットを張ったりしないといけなくなり、何をしていたのかと言われるからです。非常階段からの飛び降りを防ぐのは難しいので、判決は控訴審で覆る可能性があるでしょう」