日本列島に久々の猛暑が到来し、2016年夏の商戦が本格化している。
エアコン販売が好調でメーカーが増産に走るほか、ビールなど飲料メーカーやアイス・氷菓メーカーなども生産を増やすなど、関係者のボルテージも上がる一方で、国内総生産(GDP)も押し上げられるとの予想が出始めた。
「ガリガリ君」赤城乳業は1.5倍
まず気温上昇で活気づくといえばエアコン売り場だ。大手家電量販店の6月のエアコン売上高は、ケーズホールディングスが前年比45%増、エディオンは30%増、ビックカメラも単体で約4割増えた。昨年は6~7月は気温がもう一つ上がらず低迷していた反動もあるが、気温上昇で勢いづいているのは間違いない。調査会社のGfKジャパン(東京)によると、6月27日~7月3日の1週間の販売台数は前年の2.4倍に膨らんだという。
フィルターを自動で掃除したり、センサーで人を感知して温度を調整したりできる高機能製品が好調で、量販店の店頭では20万~30万円の高額機種が売れ筋といった声が聞かれる。
エアコンメーカーも増産に追われる。ダイキン工業は主力の滋賀製作所(滋賀県草津市)の生産台数が7月に入って前年の1.5倍レベルといい、月内は休みを返上して増産。パナソニックも7月に入って、草津工場(同)で高級モデルの生産台数を増やした。三菱電機は、静岡製作所(静岡市)の昼夜2交代の生産体制を前倒しして継続中。日立ブランドの「日立ジョンソンコントロールズ空調」の栃木市の工場も6~8月の生産台数は前年から4割増しといった具合だ。
飲料業界も鼻息が荒い。大手ビールメーカーはアサヒビールが7月にビール類の製造を前年比で1割増、サントリーも7~8月に同1割増、キリンビールやサッポロビールも前年を上回る生産を予定する。清涼飲料も7月にアサヒ飲料が炭酸水「ウィルキンソン」を4割、キリンビバレッジが水分・塩分補給飲料を2割増産するほか、ネスレ日本も7~8月のペットボトルコーヒーの生産を15%増やす。
「ガリガリ君」の赤城乳業は、7月になって氷菓・アイスクリームの売上高は前年の1.5倍と好調で、7~8月の生産量を前年より12%上乗せする。江崎グリコは、千葉、兵庫など国内4つのアイスクリーム工場を例年より1カ月早く5月からフル稼働させ、「ジャイアントコーン」「アイスの実」など主力商品を中心に7~9月に販売するアイス類の生産量を例年より10%ほど上積みする計画だ。
製氷メーカーのニチレイ・アイスは、「コンビニカフェ」のアイスコーヒー用や家庭用の袋入りなどの工場を9月末までフル稼働させるという。
過去には秋以降に「反動減」の年
暑さは、西日本では引き続き「猛威」をふるい、やや収まっている東日本でも8月には暑さが戻る見込みだ。猛暑の原因とされるのが、南米ペルー沖の海面水温が低くなる「ラニーニャ現象」。これが発生すると、地球の大気の流れが変わり、世界のあちこちで異常気象が生じる。一番最近では2014年夏から冬にかけてで、西日本から北日本の日本海側で10月を中心に暖秋、12月から翌年2月までは例年以上の寒波や降雪に見舞われた。また、影響が大きかったのは1994年と2010年の夏で、いずれも記録的な猛暑になった。
この猛暑効果が国内総生産をどのくらい押し上げるのか。第一生命経済研究所の永濱利廣首席エコノミストは、日照時間が2010年並みと1994年並みの場合を想定し、個人消費増に伴う輸入増加というGDPへのマイナスも加味して試算。2010年並みになった場合は5,300億円(0.4%)、1994年並みの場合は7,200億円(0.6%)、7~9月期の実質GDPを押し上げると弾いている。日本総合研究所の小方尚子主任研究員も、7~9月期の平均気温が1度上昇すると、実質GDPベースの個人消費を0.34%押し上げると予測している。
ただ、秋からの反動減の懸念もある。実際、2010年の場合、7~9月期GDPは実質前期比0.9%増が、10~12月期は0.8%減に落ち込んでいる。今年は春の賃上げが前年を下回り、夏のボーナスも大企業では増えているものの、日本生命保険のインターネットでのアンケート調査では前年比3.2%減るなど、所得も伸び悩んでおり、「夏・秋をならせば個人消費はプラス・マイナスゼロ」(エコノミスト)と見る向きもあり、猛暑による消費拡大も需要の「先食い」に終わる可能性もある。