日本銀行の国債買い入れが増え、2016年7月10日現在で約382兆6723億円にのぼっている。
その一方で、マイナス金利政策の影響で長期金利が急速に低下しており、7月8日の東京債券市場では、代表的な指標とされる満期10年物国債の利回りが一時マイナス0.3%まで低下(国債価格は上昇)して、過去最低を更新した。国債の9割近くがマイナス金利という指摘もあり、今後、国債を引き受ける銀行などがなくなる可能性もある。
日銀、「ただちに影響があるような状況ではない」
日銀の2016年1~3月期(15年度第4期)の資金循環統計によると、国債保有残高は16年3月末時点で、約364兆円。国債全体の残高の33.9%を占めて、過去最高となった。
6月10日時点の残高は約373兆円。7月10日現在では約382兆円とさらに膨らんでいる。
そうしたなか、日本国債の利回りは急激に低下(価格は上昇)している。英国のEU離脱で、安全資産とされる日本国債が買われる流れになっており、利回りの低下に拍車がかかっている。
日銀の金融緩和政策は、2016年2月にマイナス金利に踏み込んだ。その後、ジワジワと長期金利が低下。6月27日には10年物国債利回りがマイナス0.215%まで低下。満期までの期間が長い20年物国債の利回りは0.080%、30年債利回りは0.095%まで下がり、さらに7月6日には20年物国債の利回りがついに史上初めてマイナスに陥った。
これでは、銀行は国債を保有しても利回りでは稼げないし、満期になっても損失が出てしまう。さらに財政赤字が膨らめば、国債価格の下落リスクは増してくる。それもあって、民間金融機関の保有する国債は239兆円(16年3月末)で、この1年で16.9%も減少した。
それでも銀行が国債を買うのは、大規模な金融緩和で国債の大量購入を続ける日銀に、より高い価格で買ってもらえるとの期待があるためだ。日銀は国債市場の現状を、「現時点では安全資産として、利回りのプラスのもの(満期期間が長めのもの)から買われています」と話す。
日銀はマイナス金利政策の目的を、「金利を下げること」と言い切る。日銀にとって高い価格で買った国債は利益を減らすことにもなりかねないが、「(日銀は)国債を満期保有するので、ただちに影響があるような状況ではありません」という。
日本国債の約87%がマイナス利回りという指摘
しかし、7月5日付の「ウォールストリートジャーナル」紙は、20年物国債の利回りがマイナスに陥ったことを受けて、「日本国債の約87%がマイナス利回りということになる」と報じた。日銀は、こうした指摘について「承知していない」としているが、懸念は高まっている。
経済学者で慶應義塾大学教授の金子勝氏が2016年7月12日付のツイッターで、
「参院選前の1週間、日銀の国債買入れが6兆円増え382兆円に。さらにリニア新幹線など10兆円の経済対策。日本国債は世界中のマイナス金利国債の3分の2を占める。待つのは泥沼だ」
と投稿。さらに、
「日本の国債利回りは今月初め、満期が20年近くまでマイナスに転落。日本国債の約87%がマイナス利回りという国債市場麻痺の異常事態」
とつぶやいた。
以前から、金子教授は日銀の「マイナス金利政策」に懸念を抱いていて、6月19日付のツイッターでも、
「マイナス金利は底なし沼だ。国債消化のためにあてどもなくマイナス金利が進むが、日銀の損失が拡大し、限界が近づいている」
と、指摘していた。
日銀によるマイナス金利政策の「限界説」は、ここにきて急速に広まっている。
第一生命経済研究所経済調査部の主任エコノミスト、藤代宏一氏は「おそらく、日銀は想定していたスピードよりも速く、急激に金利が下がってしまったのではないでしょうか。20年物国債の利回りまでマイナスになって、もう一段引き下げても(マイナス金利政策の)効果がもう見込めないのではないか、との見方が広がっていることがあります」と、マイナス金利政策の「出口が見えなくなっている」と指摘している。