ソフトバンクやKDDI(au)、NTTドコモのケータイ大手より利用料金が安い「格安スマートフォン」の普及が広がってきた。
背景には、流通などの異業種からの参入が相次いだことで「格安スマホ」の認知度がアップ。高齢者や子ども向けに格安スマホを選ぶケースが増えてきた。これに対抗して、ケータイ大手も格安スマホを相次いで取り扱い。さすがに無視できなくなってきたようだ。
高い利用者満足度、67.5%が「他人に勧めたい」
IT市場専門の調査会社、MM総研によると、NTTコミュニケーションズやインターネットイニシアティブ(IIJ)といった独立系の仮想移動体通信事業者(MVNO)がSIMカードを活用して独自の料金プランで提供する格安スマホの契約回線数は、2016年3月末に539万4000回線となり、前年比65.5%増。3年前と比べると、じつに7倍も増えた。
最近は個人の利用に加えて、経費削減を進める企業が導入するケースもあり、右肩上がりの傾向がより鮮明になった。MM総研は、2016年度は旺盛な個人向け需要を背景に、17年3月末には820万回線に達すると予測。現在、スマートフォン全体に占める格安スマホの契約者は7%程度だが、18年3月末には16年3月末の2倍以上となる1170万回線と、全体の1割に達するとみている。
格安スマホはNTTドコモなどの回線を借りて、割安な値段で通信サービスを提供する。たとえば、月々5ギガ(ギガは10億)バイトのデータ通信で7000~8000円前後かかるケータイ大手の料金プランと比べて、格安スマホは2000~3000円。1時間程度の通話ができて、毎月3~4ギガバイトのデータ通信が使えるプランであれば2000円を割り込む。
文字どおり、「格安」が売りだ。MM総研が2016年6月28日に発表した「国内MVNO利用状況調査」(MVNO利用者3690人が対象)によると、MVNO利用者に満足度を聞いたところ、「大変満足」と「やや満足」の合計が62.7%に達した。また、67.9%の利用者が、使っているMVNOを「他人に勧めたい」と答え、「勧めたくない」(5.5%)の10倍以上となった。
MM総研は、「MVNOは利用者自身のライフスタイルと利用状況に応じた契約、検討が重要だが、今後は幅広いユーザーに支持される市場といえます」としている。
品質やサービスも携帯大手と遜色なくなる
「格安スマホ」が躍進する背景には、NTTコミュニケーションズやIIJといったIT大手に加えて、楽天(楽天モバイル)やU‐NEXT(U‐mobile)、BIGLOBE、ケイ・オプティコム(mineo)、さらには2016年2月には流通大手のイオンが、16年夏には無料通信アプリを手がけるLINEが参入を予定するなど、サービスの担い手が増えてきたことがある。
それに伴う、事業者間のサービス内容や料金などの競争激化。また、総務省が16年4月以降、ケータイ大手にスマホの「実質0円」販売を禁じたことがあるともいわれる。
格安スマホ同士の値下げ競争も過熱。「FREETEL」ブランドのプラスワン・マーケティングは、通信料とスマホ本体(Android搭載)の分割代金の合計で月576円(税別)から使える新しいキャンペーンを、2016年6月27日に発表した。
同社はNTTドコモの通信回線網を利用するが、NTTドコモなどケータイ大手の最低料金よりも、じつに8割以上も安くなる。
楽天も、月1880円(税別)でスマホが使える新プランを7月1日から始めた。中国の中興通訊(ZTE)製の機種を選び、本体代金の24回の分割払いと月2ギガバイト分のデータ通信料、専用アプリを使った5分以内の通話料を含んだ料金だ。
一方で、格安スマホも最近は、データ量の上限や通話品質などのサービス内容もケータイ大手に比べて遜色がなくなってきている。脅かされるケータイ大手はどうしているのか。
KDDI系のUQコミュニケーションズ(UQモバイル)は、格安スマホが月1980円(税別)から使える「イチキュッパ割」キャンペーンを7月1日に開始した。従来料金から1000円値下げ、ソフトバンク(Y!モバイル)の「ワンキュッパ割」や、他の格安スマホに対抗。UQモバイルを受け皿に、auユーザーが他社に流れるのを食い止める。
MM総研は、「月5000~6000円で提供しているケータイ大手と比べて、格安スマホはサービス内容によるとはいえ、月980円ほどで提供しているのですから、『格安もどき』を売ってでも対抗せざるを得ません」と指摘。格安スマホ市場が伸びていくなか、「ケータイ大手も、これ以上見過ごすわけにはいかなくなったというのが現状。放っておくと、いずれ(ユーザーが)一気に格安スマホに流れてしまうとの危機感ともいえます」と話す。