日産自動車が系列部品メーカー最大手、カルソニックカンセイの全株式の売却を検討していることが明らかになった。系列の中でもひときわ日産との関係が深いとされてきただけに、売却に踏み切るカルロス・ゴーン日産社長の狙いに注目が集まっている。
「カルソニックカンセイは、ルノー・日産にとって最も重要なパートナーの一つ。同社の競争力向上につながるようなさまざまな選択肢を検討している」。売却報道が流れた2016年5月24日、日産はコメントを発表。カルソニックカンセイとの関係の重要性を強調しつつ、売却の可能性は否定しなかった。
取引先絞り込みと「緊密な4社」
カルソニックカンセイはエアコンやマフラーなどが主力商品で、日産は株式の約41%を持つ筆頭株主。2016年3月期の売上高は1兆533億円と系列の中で最大だ。
日産がルノーと資本提携した1999年、ルノーから送り込まれたゴーン氏は「コストカッター」の異名を取る。就任以来、これまでも系列取引の解消を大胆に進めてきた。自動車メーカーを頂点に、系列の部品メーカーや下請け企業がピラミッド型に連なる日本流の自動車企業群を非効率経営の元凶と位置づけ、日産の再生計画「日産リバイバルプラン」で大幅な取引先の絞り込みを掲げた。保有する約1400社もの部品メーカーの株式は「緊密な4社」を除いて売却などを進めた。
カルソニックカンセイはこの「緊密な4社」に含まれているとみられていた。実際、2005年には日産が第三者割当増資を引き受ける形でカルソニックカンセイを子会社化し、関係をより深めた。
自動車業界に驚きの声
ただ、その後、自動車の技術開発の方向性は大きく変わり始めた。従来からの環境対応に加え、大手自動車メーカー各社は人工知能(AI)を搭載した自動運転車の開発にしのぎを削り、インターネットとつながるクルマの進歩は著しい。トヨタ自動車が2016年5月24日(日本時間25日)、自動車の配車サービスをネットで提供する米ウーバー・テクノロジーズと提携検討を発表するなど、自動車メーカー各社の重要な提携先は、今やIT企業になっている。
自動車メーカーが求める部品や技術が大きく変わる中、従来から「聖域はない」と語るゴーン氏は、緊密だったカルソニックカンセイとの系列関係にもメスを入れることを決断。1000億円を超える可能性があるカルソニックカンセイの売却益を、燃費不正問題の発覚をきっかけに日産グループ入りを決めた三菱自動車の買収に充てるとともに、AIや世界的な環境規制強化を受けた電気自動車(EV)など、技術開発の主戦場となっている最先端分野の研究開発や提携に振り向ける方針だ。
自動車業界では、1999年から続くゴーン氏の系列解消がカルソニックカンセイにまで及んだことに驚きの声が広がっている。同時に「時代に合わせた判断を冷徹に下すところはまさにゴーン流」(メーカー幹部)との声もある。
一方のカルソニックカンセイにとっても、日産の保有株売却は日産以外の取引を拡大するチャンスになり得る。ただし、現状は取引の約8割が日産向け。日産依存度の高い経営からどう脱却していくのかが問われる。