国会会期末を控えて野党4党が内閣不信任決議案を提出するなど与野党の対立が本格化するなか、民進党が相次いで「詰めの甘さ」を露見させている。
民進党は、安倍晋三首相の伊勢志摩サミットでの発言を問題視している。発言を検証する中で、英国の次期首相候補を揶揄したマンガを、複数の議員が安倍晋三首相を非難するマンガだと間違えて紹介。フェイスブックでマンガを紹介した議員は、後に削除する羽目になった。その20日ほど前には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者を衆院厚生労働委員会に呼べなかったとして与党側を激しく非難した後に事実誤認を指摘され、軌道修正を迫られたばかりだ。重要な局面に勇み足が続いている形だ。
G7首脳が安倍首相に「あの大馬鹿野郎から逃げようぜ、逃げたほうがいいよ」???
民進党は、安倍晋三首相が主要7か国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)で、「世界経済はリーマンショックの前と似た状況だ」などと述べたとされることを問題視しており、「サミット関連調査チーム」を立ち上げている。5月30日に開かれた会合では、山井和則・国対委員長代理が、英タイムズ紙に載ったという風刺画を張り付けたパネルを手に、安倍首相を批判した。
風刺画は、葛飾北斎の富嶽三十六景(神奈川沖波裏)の大きな波を男性の大きな口に見立て、その口がG7首脳が乗ったボートを飲み込みそうになっている構図だ。首脳の吹き出しには、「あのとてつもないバカからは逃げた方がいい」というセリフが書かれている。山井氏は風刺画を
「ここにも描いてあるように、安倍さんの顔でね、日本の津波からG7の首脳の方々が『あの大馬鹿野郎から逃げようぜ、逃げたほうがいいよ』という...これアメリカの...、イギリスの、タイムズという最有力新聞ですよね。つまり、安倍総理が国内で国民的に言っていることは、捏造なんじゃないの?ということですよ。きつい言葉を言えば」
などと解説した。民進党の柿沢未途衆院議員も、フェイスブックに写真付きで
「飾北斎の富嶽三十六景をモチーフに『ひとり偽装リーマンショック宣言』の世界経済危機でっち上げを表現。それにしても、安倍総理を指していると思われる『Bloody Idiot』という言葉は、英語の語感としてキツイなあ」
と書き込んだ。
マンガの作者は「ボリス・ジョンソンが首相になった際の『恐怖のシナリオ』」
両議員は、波に描かれている男性を安倍首相だと理解しているようだが、実際は全く違うものだった。このマンガの作者は自らのツイッターアカウントでも5月27日(日本時間)に作品を掲載している。そこについた説明は
「ボリス・ジョンソンが首相になった際の『恐怖のシナリオ』が日本でのG7サミットで持ちあがった」
というもの。あの「大きな口」は、安倍首相ではなく、次期首相候補とされるボリス・ジョンソン前ロンドン市長のものだったのだ。ジョンソン氏は近く行われる国民投票で欧州連合(EU)離脱を支持し、キャメロン首相は残留を支持している。これに加えて、タイムズ紙に載ったマンガについた説明(キャプション)では、ボートに載っているのはキャメロン首相、ドイツのメルケル首相、米国のオバマ大統領、フランスのオランド大統領、安倍首相だとされている。キャメロン首相をはじめとするG7首脳が、EU離脱の主張を「とてつもないバカ」だと非難する内容だったのだ。
勘違いがワザとかは不明だが、くだんの絵を安倍首相を批判したものだ、とするネット上の書き込みが出回っていた。柿沢議員は「釣られた」と思ったのか、フェイスブックの書き込みは5月31日午後になって削除された。
釈明会見ではツイッターでの歯切れの良さ消える
民進党の「勇み足」は、その20日ほど前にもあった。5月10日、衆院厚生労働委員会に民進党が参考人として呼ぼうとしていた筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の岡部宏生(ひろき)さんが出席できなくなった問題だ。東京新聞などが「与党側が反対」したためだと報じたことを受け、山井氏はツイッターで、
「前代未聞の障害者差別が国会で起こるとは!障害者差別をなくす先頭に立つべきなのが国会です。ALS患者の参考人出席に反対した与党は猛省すべき、と、私は記者会見で述べました」
などと怒りをぶちまけた。ところが、このツイートは後に削除されることになった。他党から異論が続出したためだ。公明党の伊佐進一議員は
「委員会の場にいましたが、事実は異なります!民進が難病患者の方を呼びたいと理事会にはかり、委員長はOK。すでに出席登録されてたものをなぜか、民進党みずから差し替えました」
とツイートし、おおさか維新の会の浦野靖人議員も、
「事実と違いますね。理事会でも委員長一任となり、渡辺委員長が了としました。その後に参考人を差し替えたのは民進党自身。仮にですが、意図的にこの様な報道を狙っての事なら許されない」
と同調した。厚生労働委員会の渡辺博道委員長(自民党)も会見して
「推薦者である民進党が取り下げた」
などと話した。
山井氏ら民進党も反論の会見を開いたが、ツイートのような、一方的に与党を攻撃する歯切れの良さは消えていた。会見に出席した委員会野党筆頭理事の西村智奈美議員によると、与党側が「(内閣提出の)児童福祉法の提案理由の説明とセットでなければ岡部さんの招致は認められない」などと伝えてきたため、こういった取引には応じられないなどとして岡部さんを呼ぶことを断念せざるを得なくなったと説明。山井氏は、
「民進党側は最後の最後まで、岡部さんをお呼びしたかった。ところが残念ながら与党の意向で、断念せざるをえないように追い込まれた。ところが色々批判が厳しいので、与党側は『いやいや、民進党が取り下げた』と今になって言い始めているが、私たちが自主的に取り下げる理由がない」
などと理解を求めた。
不信任案は5月31日夕方、衆院本会議で賛成124票、反対345票の大差で否決。野党は攻め手に欠く状態が続いている。