「アリさんマークの引越社」で知られる引越社関東(東京都中央区)と労働組合「プレカリアートユニオン」(東京都渋谷区)の団体交渉会場をめぐり、同社が労組に「嫌がらせ」とも取れる要求を行っていた。
当初、同社が労組側に通知していた会場は「霞ケ関駅」。てっきり本社所在地から近い東京都千代田区霞が関付近と受け取っていた労組だが、交渉前日に埼玉県川越市の「霞ヶ関駅」を指定される。労組側は「幼稚な嫌がらせだ」と批判を強めている。
「川越市」の霞ヶ関を選ぶ理由
この一件は、プレカリアートユニオンが2016年5月25日の公式ブログで明かした。26日の団体交渉について、都道府県名を示さず「霞ヶ関駅付近で探している」とだけ通知していた同社が、前日になって埼玉県の霞ヶ関駅を指定してきたという。
同社の本社所在地は日本橋の小伝馬町、組合の所在地は代々木だ。労組側は当然、会社にも組合にも近い東京都千代田区の霞ケ関駅だと認識していた。「子どもじみていますが、嫌がらせのつもりのようです」とブログ記事に苛立ちをぶつけている
団体交渉は実際に埼玉県の霞ヶ関で行ったが、J-CASTニュースが同社に取材したころ、担当者は理由については「答える必要はない」と回答を拒んだ。
千代田区の霞ケ関駅と埼玉県の霞ヶ関駅は直線距離でおよそ40キロ。東京メトロ丸ノ内線と東武東上線を乗り継ぐと、およそ1時間で到着する。確かに「物理的に到着不可能な距離」ではないが、なぜわざわざこの地を選んだのか。
団体交渉に参加したプレカリアートユニオンの清水直子・執行委員長に取材すると、「交渉に出席したカスタマー担当の社員2人が、団体交渉開始まで川越で仕事があったから」という選定理由を同社が説明したと明かす。
しかし、「埼玉県の霞ヶ関を選んだ合理的な理由は、全く思いあたりません」といい、「幼稚。自らの行為を客観視できず、何が会社にとって利益であるのかを冷静に判断できないのではないか。そのような経営陣の姿勢、体質が改められない限り、会社が健全に存続するのは難しいのではないかと心配」と同社の行為に憤る。すでに、本件についての警告文を同社へ送ったという。
引越社関西との団体交渉は「箕面市」
双方の団体交渉は15年3月、従業員男性が未払い残業代や不当な弁償金の返還などを同社に求めてプレカリアートユニオンに加入したことで始まった。労組の公式ブログや公式サイトによると、男性は11年に入社したが、長時間労働と残業代の未払いに悩まされた。15年1月には営業車の運転中に車両事故を起こして、会社から48万円の弁償代を請求されたという。
さらに、労組加入後は営業職から「アポイント部」に配置転換、15年6月には一日中立ちっぱなしの「シュレッダー係」に異動させられた。同年 7月、これを不当とした男性は地位確認などを求める訴訟を起こしたが、懲戒解雇を突き付けられた(2か月後に撤回)。今も男性は「シュレッダー係」のままだ。
なお、清水さんは取材当日の5月27日も、同社の関連会社、引越社関西と団体交渉に臨んだのだが、「車で新大阪に行くより、道が空いている」という理由から、新大阪駅からも本社(大阪府吹田市)からも離れた箕面市を会場に指定されたという。