日米航空交渉で合意していた羽田空港の米国路線発着枠について、国土交通省は2016年4月26日、全日本空輸(ANA)に4便(4往復)、日本航空(JAL)に2便(2往復)を新たに割り当てることを決めた。
全日空に2倍の発着枠を配分したのは、公的支援を受けて経営再建した日航をこれ以上優遇することがないとする国交省の方針に基づくものだ。
「8.10ペーパー」で縛られたJAL
これを受け、全日空と日航は10月末からの運航開始を目指す。今回の新規配分は昼間時間帯の1便と深夜早朝時間帯の1便で、国交省はいずれも全日空に配分した。これとは別に、既に配分済みの深夜早朝の全日空2便と日航2便を昼間時間帯に移行することで、羽田空港の米国路線発着枠は全日空4便、日航2便となる。全日空は昼間帯のニューヨーク便やシカゴ便の開設を検討する。
羽田空港と米国を結ぶ定期便を巡る日米の航空交渉は2016年2月に決着し、米東海岸へ昼間に出発する便の新設が期待されていた。
全日空と日航の配分に格差があるのは、政府の方針があるからだ。日航をめぐっては、国交省が2012年8月10日、「日航は利便性の高いサービスを安定的に供給し、国民生活と経済産業活動を支える我が国の航空ネットワークの維持・発展に貢献する企業として確実な再生を果たすことが必要である」とする方針を定めた。
この中で「日航に対する公的支援によって、航空会社間の競争環境が不適切に歪められることがあってはならない」とも明言されている。「日航の企業再生への対応について」と題したこの方針は、航空業界で「8.10ペーパー」と呼ばれ、日本航空グループの中期経営計画(2012~2016年度)の期間中、日航の新規路線の開設を抑制的に判断する根拠となっている。
2010年1月に会社更生法の適用を申請し、経営破綻した日航は、2012年9月に東証1部に再上場。企業再生支援機構は保有株を全株売却し、支援を終了したが、旧株主の減資や金融機関の債権放棄などの支援があった。通常の赤字企業と同様、繰越欠損金制度による税制面の優遇も続いている。
今回の配分について、両社の反応は対照的だった。全日空の親会社、ANAホールディングスの片野坂真哉社長は「2012年8月10日に取りまとめた方針のもと、発着枠が配分されたことに深く感謝を申し上げたい」とするコメントを発表したが、日航からは公式なアナウンスはなかった。
国際線旅客数で悲願のトップを達成したANA
最近の両社の業績を比較すると、全日空の国際線旅客数が2015年度に初めて日航を上回るなど優位性が目立つ。両社の輸送実績によると、2015年度の国際線旅客数は、全日空が前年度比13.5%増の816万7951人、日航は3.7%増の808万676人。日航は2016年度まで新規路線開設を制限されていることが影響した。1986年3月に国際線定期便に参入して以来、全日空が国際線旅客数で日航を抜くのは悲願だった。
ANAホールディングスと日航の2016年3月期の連結決算は両者の力関係の微妙さを示す。ANAの売上高は4.5%増の1兆7911億円、最終利益は99.2%増の781億円と、いずれも過去最高を更新。国際線の旅客収入が伸びたことが利益を押し上げた。
対する日航は売上高が0.6%減の1兆3366億円、最終利益が17.1%増の1744億円と減収増益だった。日航の業績は着実に回復しており、「当社の業績改善の要因は公的支援の効果もあるが、当社自身の構造改革による効果が大部分を占める」と主張。構造改革とは不採算路線からの撤退や人件費の大幅削減だ。
8.10ペーパーが2016年度いっぱいで効力を失えば、日航は2017年度から新規路線の開設や新規投資を認められることになる。国際線などで拡大路線を続ける全日空に対して、日航は規模の拡大を追うことなく、採算性を重視した経営を続ける方針を示すが、経営への縛りから解放されれば、どのような手を打ってくるか。両社の真の競争は2017年度以降となりそうだ。