子宮頸がん(HPV)ワクチンは各国で打たれているワクチンだが、日本では副作用問題から接種が極端に低迷している。
「このままでは子宮頸がんで死ぬのは日本女性ばかりになりかねない」との強い危機感を抱く産婦人科医たちを中心にした専門家会議が、報道関係者を対象にしたセミナーをこのほど、東京で開いた。集まった記者たちに「正しく理解してほしい」と訴えた。
重い副作用を理由に日本では接種率が悪化
セミナーがあった2016年4月21日、海外の代表として米アルベルト・アインシュタイン医科大学のフィリップ・キャッスル教授(疫学・公衆衛生)が基調講演した。子宮頸がんはHPV(ヒト・パピローマ・ウイルス)と呼ばれるウイルスが感染することで起きる。多くは自然に消えるが一部のウイルスが一部女性の子宮頸部に居つづけ、前がん状態を経て子宮頸がんになる。10代女性にウイルス感染を防ぐワクチンを打つことで7~9割の子宮頸がんを予防できる。
重い副作用を理由に日本で接種率が悪化したことを受けて14年3月にはWHO(世界保健機関)、15年5月にはEMA(欧州医薬品庁)の安全専門委員会が、ワクチンとの因果関係は認められないとの見解を発表している。 キャッスル教授は、日本で問題になった重症例が全てワクチンの副作用だと仮定しても20代前半までの女性5万人に1人以下の率で、慢性疲労症候群(400人に1人)、自殺(3900人に1人) 、事故による致命傷(25000人に1人) などに及ばない。また、副作用の疑い1件に対し、防げる子宮頸がん患者は310人、防げる死者は90人になる、との計算値を示した。
メディア報道が「副作用に偏っている」と指摘
続いて自治医大さいたま医療センターの今野良教授(産婦人科)は、日本では厚労省や反対派の医師は、ワクチン接種後に起きた「有害事象」をすべて副作用と見なしている。因果関係の有無を吟味しないのでは「バナナを食べた後、事故を起こしたら、事故はバナナが原因というようなもの」。国民生活基礎調査では、10代前半の女子の心身の不調の率は、ワクチン導入前後の07年、15年で変化はなく、名古屋市の調査でも接種者が未接種者より多かった症状は見られなかった。ワクチンのがん予防効果は世界的に認められているのに、厚労省局長が「前がん状態を減らすが、がんが減ったとの証明はない」と国会答弁したことも「無責任」で、メディア報道の7割が副作用に偏っていることも批判した。
今野教授は「子宮頸がんが減れば産婦人科医の仕事も減る。その方が女性のためになるとの私たちの思いをメディアの皆さんは正しく理解してほしい」と結んだ。(医療ジャーナリスト・田辺功)