エンブレムやメインスタジアムなどドラブル続きの2020年東京五輪・パラリンピックに、新たな懸案が持ち上がった。2016年3月の段階でフランスの司法当局が「東京五輪の招致過程を含む陸上界の汚職」の捜査に乗り出したと報じられていたが、さらに事態が進展した。国際陸連のラミーヌ・ディアク前会長の息子が関連する口座に約280万シンガポールドル(約2億2300万円)が、「招致委員会」側から振り込まれ、仏司法当局も把握していたことが新たに明らかになったというのだ。
日本政府は、振り込みについて「正式な業務委託に基づく対価として支払った」と主張しているが、招致プロセスの公正さに対して投げかけられた疑問を払拭できるかどうか、東京五輪をめぐるゴタゴタが続く気配だ。
英ガーディアン紙「深刻な疑念が提起されている」
発端は、世界反ドーピング機関(WADA)の第三者委員会が国際陸上連盟(IAAF)の汚職について調査した2016年1月の報告書。この報告書では、日本が五輪誘致のために国際陸連の主催大会に500万米ドル(約5億8000万円)の協賛金を支払ったとされた。
16年3月には英ガーディアン紙が、フランスの司法当局が「招致過程を含む陸上界の汚職」について捜査に乗り出したと報じた。一連の汚職はIAAFのラミーヌ・ディアク前会長が主導していたとされる。
ガーディアン紙が16年5月11日夜(日本時間)に出した続報によると、IAAFにマーケティング・コンサルタントとして雇用されているディアク氏の息子、パパ・マセッタ・ディアク氏が関連するシンガポールの秘密口座に東京招致委員会側から130万ユーロ(約1億6000万円)振り込まれたといい、東京五輪の招致活動に「深刻な疑念が提起されている」と指摘している。
ガーディアン紙の報道を受ける形で、フランスの司法当局も5月12日、マセッタ・ディアク氏が関連するシンガポールの口座に約280万シンガポールドルが送金されたことを把握したとする声明を出した。
萩生田官房副長官「世界陸上招致コンサル請け負った『大変実績のある会社』」
金額はガーディアン紙と司法当局の声明とで異なっているが、招致プロセスの公正さに疑問を投げかけるという点では共通している。一方の日本政府は、一連の支出は正当だったと主張している。萩生田光一官房副長官は5月13日午後の記者会見で、
「スポーツ庁の報告によると、招致委員会では招致計画づくり、プレゼンの指導、国際渉外のアドバイスや、実際のロビー活動、情報分析など多岐にわたる招致活動について、当時、複数の会社と業務委託あるいはコンサルタント契約を行っており、今回報道されている招致委員会からの支払いは、そのうちのひとつであることが確認できた」
などと説明。支払いが賄賂にあたるとの見方を否定した。
「本件は正式な業務委託に基づく対価として支払ったものであり、疑惑を持たれるようなものではないと思っている」
支払先については、
「組織委員会によれば、契約した代理店は、2015年の北京国際陸上の招致のコンサルタントなどを請け負った、大変実績のある会社であり、かつ、アジアや中東の情報分析のエキスパートであったことから、依頼を行ったものと聞いている」
などと述べ、固有名詞への言及には避けた。
一連の問題について国際オリンピック委員会(IOC)から日本オリンピック委員会(JOC)に問い合わせがあり、JOCはすでに回答済みだと萩生田氏は説明している。
一方、ガーディアン紙は、シンガポールの秘密口座は
「スイスに本拠地がある電通スポーツの子会社、『アスリート・マネジメント・サービス』(AMS社)でコンサルタントをしているイアン・タン・トン・ハン氏が所有している」
と報じた。これに対し、電通広報部はAMS社について
「多数ある取引先のひとつで、子会社でもなく、出資もしていない」
などと関連を否定。そのため、一部で指摘されている「イアン・タン・トン・ハン氏が電通のコンサルタント」だとする説も全面否定し、
「現時点でフランス当局から捜査や調査依頼などコンタクトされたという事実もない」
などと説明した。電通は子会社「電通スポーツ」を英国、米国、シンガポールに持っているが、ガーディアン紙がどの法人を意図して報じているかは明らかではない。日本国内には「電通スポーツ」という法人はなく、電通のスポーツ局がスポーツに関する業務を担当している。