トヨタ、工場「9割停止」の教訓 また地震が突きつけた「生産方式」の弱み

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   トヨタ自動車は連休明けの2016年5月6日から、操業停止中の車両組み立て5工場8ラインの操業を再開した。

   熊本・大分を中心とする地震のため、部品の供給が滞り、一時は国内30ラインのうち26ラインの操業を停止していたが、今回の対応で、国内工場の操業を全面的に再開することになる。操業停止により計8万台の生産が遅れ、一部の納車の遅れは完全には解消していない。

  • 在庫を少なくする「トヨタ生産方式」のあり方が、今回の操業停止で改めて問われた(写真は2010年撮影)
    在庫を少なくする「トヨタ生産方式」のあり方が、今回の操業停止で改めて問われた(写真は2010年撮影)
  • 在庫を少なくする「トヨタ生産方式」のあり方が、今回の操業停止で改めて問われた(写真は2010年撮影)

納車の遅れなど「まだ全体を見通せていない状況」

   問題の部品は、ドアと車体の間に取り付けられる「ドアチェック」というもの。アイシン精機の子会社、アイシン九州(熊本市)で生産していた。この工場が被災したために、供給が滞る事態になった。ドアチェックはアイシンが国内シェアトップで、多くのトヨタ車に使われていた。このためトヨタは地震直後、段階的にグループも含めて全体の9割近いラインの操業停止に追い込まれた。

   トヨタは国内で調達困難になったドア部品を、系列メーカーの海外拠点から取り寄せることなどで対応。4月25~28日には、まずハイブリッド車「プリウス」や主力の小型車などを製造する工場で操業を順次再開していった。

   そして5月6日からトヨタ自動車九州の宮田(福岡県宮若市)、岐阜車体工業(岐阜県各務原市)、トヨタ車体のいなべ(三重県いなべ市)とトヨタ本体の元町(愛知県豊田市)、日野自動車の羽村(東京都羽村市)の計8ラインで再開。これで、地震による影響拡大をひとまず抑えた形だ。

   ただ、トヨタは今回の熊本地震について、「納車などの販売状況については、お客様から販売店のほうに確認などのお問い合わせがありますが、車種によって状況が異なりますし、(地震への影響については)まだ全体を見通せていない状況です」と、説明。業績面を含め、精査しているところで、「現段階で公表できることはありません」と話している。

特定工場に頼る部品の調達

   トヨタといえば、「トヨタ生産方式」。必要部品の在庫を極限まで少なくすることで無駄を徹底的に省くというものだが、今回の操業停止により、そのあり方が改めて問われることになった。

   振り返るとこれまで、トヨタは天災との「戦い」に追われてきた。2007年の新潟県中越沖地震や2011年の東日本大震災などで部品工場が被災して車両組み立て工場の操業停止を余儀なくされてきた。天災だけではない。16年1月には、トヨタ系の愛知製鋼の工場で爆発事故が発生。自動車部品用鋼材の供給が滞り、トヨタの国内工場は6日間の操業停止に追い込まれた。

   自動車の部品は1台で3万点にのぼるとされる。これまでの大地震などを経て、サプライチェーンの寸断に直面し、自動車メーカー各社は部品調達を分散化するとともに、下請け企業の生産情報を把握するシステムの構築を図ってきた。

   それでも今回、トヨタが国内の9割のラインで一時的とはいえ、操業停止に追い込まれたのは、国内で組み立てるクルマの多くに使われている部品を特定企業、特定工場に頼る構造になっていたためだ。

部品製造分散とコストトアップのジレンマ

   今回の熊本地震を踏まえ、トヨタはグループ企業と協力しながら、国内での部品製造の現状を改めて把握し、分散化などを進めていくとみられる。ただ、分散化を進めれば進めるほど製造コストが上昇し、最終的にはクルマの競争力に影響する。逆に特定部品を特定工場に頼る構図を放置すれば、災害発生時の影響は免れない。最悪の事態を想定して在庫を多く持てば、それもコストアップ要因になる。

   平時と緊急時の対応で、どうバランスを取るのか。1次、2次、3次下請けと、多くの部品メーカーの操業に大きな影響を与えるすそ野の広い自動車産業だけに、安定操業を維持する責任は重大だ。他方、部品調達の効率化を追求した結果、メーカー系列が希薄化し、トヨタの思惑どおりになりにくくなっているともいわれる。

   大地震が投げかけた課題は重く、トヨタに代表される自動車メーカーの悩みは深い。

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