生命保険会社や損害保険会社の日本国債離れが加速している。4月中に出そろった主要各社の2016年度の運用計画では、外国債券への投資額が合計5兆円を超える水準に達した。
もちろん、日銀のマイナス金利政策が大きな要因で、各社とも少しでも運用益を増やそうと必死だが、海外投資の拡大は為替変動リスクとも背中合わせだ。
「日本国債は運用対象として機能しなくなった」
生保は、顧客と20年、30年といった長期間の契約を結んでおり、これまで契約者から集めた保険料は安全資産とされる日本国債の20年債や30年債を中心に運用してきた。
だが、日銀が1月末にマイナス金利政策の導入を決めて以降、超低金利の状況が加速し、新発30年物国債の利回りは足元で0.3%台と過去最低の水準に沈み、10年債の利回りの中心値はマイナス0.05~マイナス0.2%と水面下に没している。まさに、「日本国債は運用対象として機能しなくなった」(日本生命保険)。
そこで、各社は日本国債投資を減らし、外国債券投資など「運用の多角化に挑戦せざるを得ない」(明治安田生命)状況になっている。
日本生命は2015年度から増やしている外債投資をさらに大幅に積み増す計画。同様に、住友生命も2016年度にさらに数千億円を積み増すなど、大手4社はいずれも日本国債投資を減らすとしている。社債も含めた国内債券全体でみれば、明治安田生命が横ばいのほかは、日本生命、第一生命、住友生命の3社は減少としている。
その一方、各社はこぞって外国債券投資を増やす方針を打ち出している。10年債で利回りが2%前後で推移する米国債が中心になるが、さらに2%台半ばのオーストラリア債なども候補という。第一生命はそのほか、「航空機リースへの投資など比較的高いリターンが得られやすい分野への資金配分を増やす」方針。2015年度に約4000億円を成長分野に振り向けた日本生命も、年10%以上の利回りを期待できる発電所や上下水道などに投資するファンドに投資する考えだ。大手以外でも、太陽生命と大同生命は中小企業の未公開株投資ファンドに計60億円を投じる計画という。
日本郵政グループのかんぽ生命保険も、方向は同じ。株式や外国債券などの「リスク資産」を2017年度に全体の1割まで増やす予定を1年前倒しして、2016年度中に実施する。2015年12月末の比率が6.4%だから、相当のハイペースで買い増すことになる。さらに、プロジェクトファイナンスへの参画や不動産投資の本格化など、運用対象も広げる。ただし、かんぽ生命はリスク資産の運用ノウハウという点では、まだまだ「発展途上」。運用力向上を狙って3月に資産運用や商品開発分野で第一生命と業務提携しており、当面は運用資産のうち数千億円を第一生命が出資する運用会社に預ける形で「修行」する。
損保では、東京海上日動火災保険が、社債投資に強みを持つ米子会社に500億円の運用を委託する。三井住友海上火災保険も子会社の三井住友海上キャピタルを通じて50億円の投資ファンドを組成、金融とIT(情報技術)が融合した「フィンテック」で有望な技術を持つベンチャー企業に資金供給するという。
為替変動リスクに加え、優良案件は争奪戦
ただ、「日本国債離れ」が進めば進むほど、リスク管理が大きな課題になる。外国債券は当然、為替変動リスクがついて回るため、今回、各社が投資先としてあげるのが、為替変動リスクを抑えた「ヘッジ付き外債」だ。米ドル建て債券では、数カ月先の為替予約を活用するが、手数料がかかるのに加え、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げペースダウンで利回りは低迷しており、投資妙味はそれほどではない。インフラ投資も優良案件の争奪戦の様相を呈しており、リスクと比べリターンが見合わないことも少なくない。
「日本勢が投資を拡大しようとしている資産は、世界のマネーも当然、狙ってくるだけに、期待通りの利回りを得るのは簡単ではない。インフラなどの投資でも『目利き』の力が問われることになり、円高・株安も含め、生保などの今年の投資環境は厳しい」(大手紙金融担当記者)との見方が一般的だ。