マイナス金利めぐって言いたい放題 「日銀VSメガバンク」不協和音が激化している

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   政府が、2016年6月末に任期が切れる日銀の石田浩二審議委員の後任に新生銀行執行役員の政井貴子氏を充てる人事案を4月19日、国会に提示した。退任する石田氏は三井住友銀行出身で、1998年の新日銀法施行後で、メガバンク出身者が政策委員会から姿を消すのは初めて。

   2月に日銀が導入したマイナス金利政策に対し、メガバンクからの批判が公然化しており、今回の審議委員交替で、日銀とメガバンクの不協和音はさらに高まる気配だ。

  • 日銀のマイナス金利政策に対するメガバンクの批判はますます高まっている。
    日銀のマイナス金利政策に対するメガバンクの批判はますます高まっている。
  • 日銀のマイナス金利政策に対するメガバンクの批判はますます高まっている。

メガバンク「銀行業界にとっては明らかにネガティブ」

   マイナス金利政策に対しメガバンクから異論が飛び出したのが4月14日。三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は、東京都内での講演の中で、マイナス金利政策が「銀行業界にとっては短期的には明らかにネガティブだ」と言い放った。メガバンク首脳が金融政策に疑義を唱えるのは異例だ。

   平野社長は、マイナス金利政策が「残念ながら懸念を増大させる方向に働いてしまっており、企業や個人の投資を促すかどうかは分からない」と述べ、貸し出し増加の効果は限定的だと指摘。そのうえで、銀行経営への影響について「マイナス金利を顧客に転嫁できないだろうから、利ざやはさらに縮小し、(銀行の)基礎体力の低下をもたらす」と懸念を率直に語った。

   マイナス金利政策とは、どういう政策なのか。銀行など金融機関が日銀に預けているお金の一部を「マイナス金利」とする、すなわち「手数料」を取るものだ。銀行は、余ったお金を日銀に預けておけば0.1%の金利がもらえた。日銀が国債を市中で銀行などから過去にない額を購入するという形で、大量の資金を供給するのが「異次元緩和」で、銀行などがこの資金を企業や個人向けの貸し出しに回すことで経済活動を活発にするというのが直接の狙いだ。しかし、現実には、銀行は日銀の口座にお金を積み上げるだけで、企業や個人に十分に回っていなかったため、銀行が日銀に預けるお金の一部に手数料を課すことで、日銀に預けたままにしないで、貸し出しや運用を増やさせようとしているのだ。

日銀「(銀行は)去年もたくさん収益を上げています」

   だが、マイナス金利2カ月がたち、実体経済への効果には疑問の声が高まっている。ただでさえ低かった金利が一段と下がり、住宅ローン金利の低下を追い風に、住宅購入を検討する客が増えているというものの、こうした恩恵を受ける業界は限定的だ。アベノミクスを象徴する円安・株高の基調は反転し、好調だった企業収益も頭打ちが明らかになりつつある。

   一方、日銀の黒田東彦総裁は、批判を意に介さず、強気の姿勢を崩していない。4月13日、米ニューヨークで行った講演では、「(マイナス金利政策は)近代の中央銀行の歴史上、最強の金融緩和スキームだ」と自画自賛したばかりだ。また、マイナス金利政策への理解を深めるためにホームページに「5分で読めるマイナス金利」というQ&Aコーナーも設けているが、その中で、「銀行が損しない?」との問いに、「(銀行は)去年もたくさん収益を上げています」「日銀の預金でもマイナス金利にするのは一部だけにして、あまり銀行が困らないようにしました」と回答している。

   これには、「銀行はもうかっているから少し困らせてもかまわないということか」(メガバンク幹部)と、銀行側の怒りを増幅している。

審議委員の交替で黒田総裁の「野党」が減る?

   このような状況の中で日銀審議委員を退任する石田氏は、2014年10月の追加緩和に強く反対し、2016年1月にマイナス金利政策導入を決めた際も反対に回った。一方の政井氏は外国為替を中心にした市場に精通していて、分析では一目置かれる存在だが、「金融政策についてリフレ派といったポリシーが明確なわけではない一方、黒田総裁が進める異次元緩和→円安誘導→物価上昇→デフレ脱却という流れを基本的に支持し、その延長線上でマイナス金利にも理解を示している」(大手紙経済部デスク)とされる。審議委員としては、先に、退任する白井さゆり氏の後任に桜井真氏が決まったのと合わせ、政策委員会での黒田執行部に対してのスタンスでいうと、5対4の1票差でマイナス金利を決めた1月時点と比べ、マイナス金利に反対した白井、石田氏という「野党」が2票減り、桜井氏と政井氏という「与党」が2票増えることになりそうだ。

   政井氏については3月初めに「次期審議委員」と一部に報じられ、情報漏れ批判を懸念した政府が正式な選任を先送りし、今回の提示になった。このため、ここにきての日銀とメガバンクの対立公然化が政井氏登用・メガバンク外しの理由ではない。「むしろ、政策委員会からのメガバンク外しが固まったから、メガバンクが日銀批判を始めた」(霞が関筋)との声もある。

   マイナス金利まで進んだ金融政策は、4月27、28日の金融政策決定会合でのさらなる追加緩和の観測もあるなど、一段と難しい局面を迎えている。ここで、市場の重要な構成員であるメガバンクとの不協和音がさらに高まることは、日銀の政策運営に悪影響を与えかねないとの見方も出ている。

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