最大震度7の強い地震が襲った熊本県にある「ズレたマンション」の写真が、ネット上で拡散されている。
震災被害による「亀裂」のようにも見えるマンションの状況は、実は、あらかじめこうなるように設計されていた「エキスパンションジョイント」という機能によるものだという。専門家も「(マンションは)安全設計だった」と指摘する。
地震の揺れを分散させたり、吸収したりする
2016年4月14日夜に震度5強の地震に見舞われた熊本市中央区の13階建てマンションは、一夜明けた15日、二つの棟を各階で結ぶ渡り廊下が、1か所を起点に最上階までズレているように見える状態となった。この写真がネット上で拡散され、テレビや新聞などの報道各社も「亀裂が走った」「分断状態になった」と取り上げた。
「震災被害」「マンションの脆弱性」の象徴と見なされそうな写真だが、これは「エキスパンションジョイント」と呼ばれる、地震の衝撃を緩和するための一般的な建築機能によるものらしい。
多くのビルは形や重さの異なる別々の躯体(くたい)をつなぎ合わせて建てられる。メーカー団体「日本エキスパンションジョイント工業会」の発行する「手引き」(14年12月16日版)によると、エキスパンションジョイントは躯体と躯体の間にすきま(クリアランス)を持たせる工法。地震の揺れを分散させたり、吸収したりするため、あえてすきまを作り、躯体の被害を守るわけだ。
外側から見える床には、すきまを隠して建物のデザイン性を保つ金属製のカバー材「エキスパンションジョイントカバー」が取りつけられる。
地震の強い揺れを受けると「カバー」が壊れ、躯体が開いて衝撃を和らげる。これが、遠目から見るとあたかも「亀裂」が入って建物が「分断」しているかのように見えるわけだ。
「人が落ちたりするようなことはない」
J-CASTニュースが15日に取材した同工業会担当者によると、すきまと言っても「カバー」下に幾重もカバー材が張り巡らされており、すきまから下が見えたり、人が落ちたりすることはないという。
今回の13階建てマンションのズレは、本来機能するべき機能が、正常に機能した結果とみられ、当初に報道された、いわゆる「亀裂」と呼ぶべきものではなさそうだ。
一級建築士の片山惠仁さんも15日、ツイッターで
「マンションみたいに短辺と長辺で大きく長さが異なる構造物が安全に地震の力を受け止めて揺れるようにエキスパンションジョイントは計画されています。故に大地震ではエキスパンションジョイント部が壊れるのは安全設計です」
と説明している。