訪日中国人観光客による「爆買い」に、冷や水がかかる可能性が出てきた。
中国政府が低迷する国内消費を活性化するため、海外で購入した商品を国内に持ち込む際にかかる関税を、2016年4月8日に引き上げたからだ。
高級腕時計の関税は30%が60%に
そもそも、訪日中国人観光客による「爆買い」の背景には、「円安・元高」と日本製品の品質や性能への高い信頼、また日本が免税品の対象を拡大したことがある。加えて、中国の税制が理由の国内外の価格差があるとされる。
中国の輸入品には「関税」のほか、「増値税」や「贅沢品などへの税金」の3つがかけられている。そのため、たとえば化粧品などの特定の商品は中国で買うよりも、日本で買って持ち帰るほうが大幅に安くなることがあった。
さらには、中国人客が商品を転売目的で購入したり、家族や親戚、近所や友人の分まで購入して「配る」ため、大量購入したりすることもある。
航空便の新規就航や増便、ビザ取得要件の緩和で日本に来やすくなったため、訪日中国人客は増加の一途をたどっている。日本政府観光局(JNTO)によると、2015年(通年)の訪日中国客(速報値)は推計で、前年比2.1倍の499万3800人と過去最高を記録した。
国・地域別で初の第1位となり、その旅行消費(支出)をみると「買い物」が57.1%と、じつに6割に迫る。他の国・地域と比べて、買い物支出が多いことが特徴だ。
一方で、共同通信が2016年3月24日付で中国の地元メディアの報道として伝えたところによると、2015年に海外旅行に出かけた中国人が「爆買い」などで使った金額は、前年比53%増の1兆3500億元(約23兆3700億円)にのぼった。逆に、中国を訪れた外国人観光客の消費金額は3846億元にとどまり、1兆元近い「赤字」となった原因を、日本などでの「爆買い」と指摘していた。
そうした中で、中国政府は海外で購入した商品を国内に持ち込む際に課す関税を引き上げ、4月8日から適用を開始した。中国財務省などによると、対象は入国する個人の荷物や郵便物に対する関税で、これまでの4段階(10~50%)から3段階(15~60%)に変更。たとえば、家電製品は20%から30%に、高級腕時計やゴルフ用品は30%から60%に、酒や化粧品は50%から60%に引き上げた。
海外からの持ち込み商品への関税が高くなると、「安さ」のメリットは減少し、わざわざ海外で買い物をする必要もなくなる。中国政府は、これによって、中国人による日本などでの「爆買い」に歯止めをかけて、中国の国内消費を促す狙いがある。
中国人観光客が来なくなったら、「日本は崩壊」?
ここ2~3年、日本経済、なかでも百貨店やブランド店などの免税小売りは訪日中国人観光客らによる「爆買い」消費に支えられてきたといっても過言ではない。
そうしたことから、中国政府の関税引き上げに、「爆買い」効果が消えるのではないかと、懸念する声は少なくない。インターネットには、
「内需拡大しようにも(中国)国産に信用がないから、わざわざ日本にまで来てるんじゃないの?」
「中流階級が増えてきて、訪日客はまだまだ増える。なんてたって人口が違うんだから」
などと日本経済への影響を軽視する向きがあるものの、
「中国人のおかげで日本経済が回っていた事実。どうすんだよ、アベノミクス」
「中国人様が来てくれなくなったら、日本は崩壊するじゃんwww」
「中国人目当てに商売してきた奴らがどんな反応するか楽しみだな」
といった声が寄せられている。
そうでなくても、最近の「爆買い」にも変化がみられる、との指摘もある。中国経済が低迷した結果、都市部などの不動産や株価は値下がり傾向で、そういった資産を担保にした資金が目減り、買い物に使えるお金も限られてきた、というのだ。
また、「買い物」そのものも変化。家電製品や高級腕時計などを「爆買い」する傾向が薄れて、日常品を買うようになり、一人あたりの購買額が2、3年前から3割程度減っているとの見方もある。
中国経済に詳しい、第一生命経済研究所の主席エコノミスト、西濱徹氏は「これまでの家電製品やブランドもののバッグなどはほぼ一巡しつつあります。『買い物ツアー』の団体客が減って、個人が自ら観光スポットを検索してめぐる旅に移っています」と話す。
西濱氏は、「中国人観光客の楽しみ方が変わってきていることもあり、そこに今回の関税引き上げが(『爆買い』の後退に)ダメを押す可能性がないとは言えません」と分析。なかでも、訪日中国人客への依存度が高い百貨店やブランド店ほど、痛手が大きいとみている。