2020年の東京五輪には、税金を際限なくつぎ込むことになってしまうのか。16年春になってもまだ、経費がいくらになるのか、分からないというのだ。
五輪組織委員会の森喜朗(元総理)会長が、テレビに出演してこう言った。2016年3月の終わりのことである。
「運営経費は当初3000億円だったけれども、とてもそんな額では無理」
「当初の3000億円の根拠は不明」
この「3000億円」の数字は、東京五輪の開催が決まった(13年9月のブエノスアイレスのIOC総会)ときのものだ。直前の7月、ローザンヌのプレゼンで滝川クリステルの「お・も・て・な・し」が評判になったから、まだ記憶に新しい。
当時は猪瀬直樹都知事時代で、誘致の謳い文句はコンパクト五輪。その内容はこうだった。
「地球環境にやさしい」「競技会場は半径8キロ圏内」「選手移動が楽」
ところが現在は、全く姿を変えている。
「経費は(大会運営費だけでも)1兆8000億円を超える」
関係者の要人は、当初の6倍はかかる、と公然と言い放っている。おそろしい事態になっているのだ。
東京五輪は、ロゴ問題、新国立競技場問題など、次から次へと問題ばかり。そのたびに森会長に批判が集まった。
「昨年7月に安倍総理から新国立競技場は白紙に戻すと言われてから、組織委員会は一切関係ない。スポンサー集めに奔走している。当初の3000億円の根拠は不明だった」
そう語ったテレビでの発言にはそれなりに影響力があった。
公表すると大騒ぎになる?
さらに、新国立競技場については、聖火台がない、といった信じられない話が出てきている。決まっている設計図では1500億円弱の費用ということだが、聖火台に費用は当然追加されることになる。
また、テロ対策も必要経費となる。
「五輪で来日する要人、観戦客、観光ツアーなど、来日人数はどのくらいになるのか見当もつかない」
「東京は狭い地域に網の目のように地下に線路、繁華街が広がっている。テロ対策の経費も見当がつかない」
こういった声が表に出始めている。
つまり、五輪経費はどのくらいに収まるのか予測できないらしい。ある程度は目安がついているけれども、公表すると大騒ぎになるといった声もあるのだが、いずれにせよ自信を持って公表できない数字であることは間違いない。
スポンサーなどで集める資金は数千億円が限界といわれている。不足分は当たり前のごとく税金が使われる。
全国で2兆9600億円
東京で1兆6700億円
以上は誘致の際の経済効果の数字だった。これがまだ生きているのか。開催決定以来のゴタゴタを思うと不安になってくる。それどころか税金が青天井で使われるのではないかという懸念の方が強い。
森発言のあと、猪瀬前都知事がやはりテレビに出て、自分だったらトラブル続きにはならなかった、という意味の発言をしていたのには驚いた。5000万円献金が発覚して辞任した人間とは思えない態度は、無責任そのものだった。
五輪という競技大会そのものが気の毒になってしまう。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)