株価が2016年度入りを境に急速に下落の幅を強めている。4月5日は日経平均株価が前日比で390円45銭安の1万5732円82銭で引け、1万6000円台を割り込んだ。年度末をはさんで6日連続の下落で、ほぼ1か月半ぶりの水準に戻ってしまった。
安倍政権発足前後を起点とする円安・株高の流れは明らかに逆回転しており、株式相場の反転は企業マインドを冷やし、アベノミクスの停滞感をくっきりと示している。
年度を通じての株価下落は5年ぶり
2015年度の年度末となる3月31日の日経平均株価は、1年前に比べて2448円(13%)も下落し、1万6758円67銭をつけた。年度末の日経平均株価が年度初めに比べて下落するのは5年ぶりだ。
年度が明けた4月1日の東京株式市場も全面安の展開となり、日経平均株価は一時、前日終値比600円超下落。終値は前日比594円51銭安の1万6164円16銭で、約1カ月ぶりの安値となり、以後、続落が止まらない状態だ。
株安は円高とセットで進むのが日本株の特徴だ。2015年夏以降の中国経済の減速や、これに連動する資源国の景気悪化によって、世界経済の先行きにリスクを感じた投資家は安全資産である円買いに走り、円高に傾いてきた。
2016年の年明け以降も、米国が利上げに慎重姿勢を示しドルに資金が向かいにくい状況も円高を加速させる。円高は自動車に代表される日本の輸出産業を直撃し、日本の株式市場の主役であるトヨタ自動車など輸出関連株が値を下げる。それは日本の株式市場全体を冷やす格好となり、日経平均株価の下落につながる。3月31日の外国為替市場は、1ドル=112円台前半で推移し、年度始めに比べて約8円の円高・ドル安となった。円相場が年度ベースで上昇するのは4年ぶりだ。
含み益が大幅に消し飛んでいる
年度ベースで5年ぶりに株価が13%下落したことは、企業が保有する株式の含み益の減少を意味し、財務体質を悪化させる。大和証券の試算によると、三菱UFJフィナンシャル・グループなど大手銀行5グループの年度末の株式の含み益は計約1兆9000億円減少した。それでも約6兆5000億円と、水準自体は依然として高いものの、今後もこの傾向が続けば、減損処理を避けるための株式売却が進んでさらに株価が下落する悪循環に陥る可能性も否定できない。メガバンク以外では日本生命保険が1兆3000億円、明治安田生命保険が約6000億円の含み益を失った模様だ。
株安は富裕層の消費意欲の減退につながるとされる。総務省が公表した2月の消費支出が、うるう年の要素を除いた実質ベースで前年同月比1.5%減と6カ月連続の減少となったことにも株安の影が見え隠れする。
市場は消費税増税「先送り」を織り込み済み
一方、株安を引き寄せた円高は企業心理を悪化させている。日銀が4月1日に発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、最も注目される「大企業・製造業」がプラス6と2四半期ぶりに悪化。DIの水準は2013年6月(プラス4)以来の低水準に落ち込んだ。黒田東彦日銀総裁による「異次元緩和」が始まったのが2013年4月だから、そのころの水準に戻ってしまったとも言える。先行きの不透明感も広がっている。
アベノミクスは大規模な金融緩和によって円安・株高に導き、自動車など輸出産業の企業業績を改善させたことがこれまでの主な成果だった。労使交渉への異例の政府の介入もあったものの、賃金上昇が消費拡大を招き、それがさらに企業業績を改善させる好循環の波に乗りきれないまま、景気が悪化しつつある。
「株式市場は既に2017年4月の消費増税先送りや追加の経済対策を織り込んでいる」(国内系証券)とされ、安倍政権の経済政策の行き詰まり感が高まっている。