「値上げはぜんぜん考えぬ」――往年のフォークシンガー・高田渡さんの歌とともに大写しになるのは、苦渋の面持ちでレンズを見据える、スーツ姿の男性だ。アイスキャンディー「ガリガリ君」で知られる赤城乳業(埼玉県深谷市)代表取締役会長、井上秀樹さんである。
カメラはゆっくりと引いていく。そこには井上さんを先頭に、赤城乳業の社員たち100人超が並んでいる。その表情は一様に深刻だ。やがて、「25年間踏んばりましたが、」のテロップが、その姿に重なる。「値上げにふみきろう」という歌声に合わせ、社員たちがいっせいに、深々と頭を下げた。
25年ぶり10円値上げの日にオンエア
2016年4月1日公開されたこのCMは、この日の出荷分から「ガリガリ君」が、これまでの「1本60円」から、「70円」(いずれも希望小売価格、税抜)へと値上げすることを受けて制作されたものだ。
1991年以来25年ぶりとあって、値上げは3月の発表時、大きな話題を呼んだ。といっても、その反応は、
「いや~このご時世で100円以下で頑張ってきた赤城さんはえらいですよ。味も開発努力が見られますし、キャラクターも面白いですよね。苦渋の決断だったと思いますが、このくらいならファンは離れていきませんよ。今年の新しい味に期待しております」
「赤城乳業さん今後も頑張ってください」(いずれも、J-CASTニュース記事のコメント欄より)
など、これまでの企業努力を称賛し、応援するものが多数を占めた。
今回のCMについて赤城乳業は、こうした反響に応え、「赤城乳業の気持ちを真っ直ぐに表現」したものだとしている。テレビでは4月1日・2日の2日間オンエアされ、またYouTubeでも公開、その再生回数は2日14時時点で10万回を超える。また、日本経済新聞の1日付朝刊にも、同内容の全面広告が掲載された。
バックに流れるのは高田渡45年前のフォークソング『値上げ』
値上げというネガティブな話題は、企業としてはできるだけ静かに済ませたいところだ。しかし、それを、あえてテレビ・新聞を使って告知し、また社員一同が深々と頭を下げる、という形を取ったことに、ツイッターなどでは今回も、好意的な声が目立つ。
「ここまでされると、逆に『今まで頑張ったね』と応援したくなる」
「新聞の広告でこんなに心を打たれたのは初めてかも。歌詞と写真から伝わる誠意にぐっときた。むしろ今まで60円で販売してくれてありがとうございます。今年の夏もガリガリ君買います」
「ガリガリ君のCM見て、25年間ありがとうって気持ちになった。これからも頑張って貰わねば」
なお使用されている楽曲『値上げ』は、高田渡さんが1971年に発表したもので、値上げを否定する歌詞が、次第にトーンダウンして、最終的には値上げに踏み切ってしまう、というアイロニカルな内容だ。