2016年が明けてからの大統領選の候補者指名争いで米国が沸く中、日米など12か国による「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」発効の行方に暗雲が漂っている。TPP推進派だった民主党の最有力候補、ヒラリー・クリントン氏も含め、各候補は「TPP反対」で横並び状態になってきたためだ。
TPPは安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の柱と位置づけられており、日本にとっての影響は大きい。
TPPは米国が承認しなければ発効しない
共和党候補者選考レースで先頭を走るドナルド・トランプ氏は「TPPは最悪だ」とぶち上げている。貿易自由化の進展で国際競争は激化し、米国企業の経営は悪化、「自由貿易が米国の雇用を失わせた」との主張だ。経済の停滞感や格差の拡大などで将来に不安を抱く人々がトランプ氏の主張に賛同している。トランプ氏は、そんな空気に乗って大統領を目指す構図だ。
一方、民主党のクリントン氏は、トランプ氏の勢いや同じ民主党のバーニー・サンダース氏の追い上げに押される形で、「雇用と賃金を増やす条件を満たしていない」として、現状のTPPを支持しないと表明している。「個人的信条は別にして、TPPに肯定的なことは、現段階で言うわけにはいかない」(経済産業省関係者)というわけだ。
TPPは16年2月4日、交渉参加12か国が協定文に署名した。この署名から2年以内に各国が国内手続きを完了すれば、その60日後に発効する。ただし、全12か国の手続きが終わらなくても、半数の6か国以上が手続きを終え、かつ、承認した国の国内総生産(GDP)が全体の85%を超えれば発効する。つまり、GDPの規模が大きい日本と米国が決定的に重要ということになる。日本政府は今国会で手続きを終える意気込みだが、米国での手続きが終わらない限り、発効しない。
クリントンは、当選すれば賛成に舵を切る?
しかし、米国の大統領選は今まさに「TPP反対」一色の様相。TPPの先行きが見えなくなれば、日本にとっての影響は深刻だ。安倍政権はTPPを成長戦略の重要な柱と位置づけ、「TPPはGDPを実質で約14兆円押し上げる」との試算を示してきた。そんな貴重な柱を失うことになる。しかも交渉合意の立役者とも言われ、交渉内容を熟知している甘利明前TPP担当相が1月末、金銭授受問題で辞任した。年明け以降の世界的な株安と円高で、日本の経済も不透明感を増す中、「アベノミクスには黄信号がともってきた」(エコノミスト)との声も目立ちつつある。
ただ、米国が本当にTPPを承認しないかといえば、そんなことはないとの指摘も少なくない。特にクリントン氏については「当選すれば、TPP承認の方向にかじを切る可能性が高い」(エコノミスト)との見方が一般的。クリントン氏は元々、国務長官時代にTPP交渉に加わっており、「TPP不支持は選挙対策を踏まえた政治的発言」(同)と見られるためだ。
一方、筋金入りのTPP反対論者とされるトランプ氏が当選した場合はどうなるか。「議会が全面的にトランプ氏に賛同するわけではない」との声もある。だが、トランプ氏の現在の躍進が予想外だっただけに、先行きは見通せないというのが実情だ。日本政府もトランプ氏の動向に神経をとがらせている。