日銀のマイナス金利導入で、地方銀行の収益低下懸念が強まっている。長期金利が初めてマイナスとなり、資金の運用難や利ざやの縮小が避けられないためだ。
金融庁は地銀が収益確保のためにリスクの高い運用に走らないか監督を強める構え。市場では、地銀の再編が一段と加速すると予想する声も出始めた。
「罰金」導入で銀行株は軒並み急落
「収益環境がさらに厳しくなることを覚悟しなければ」。2月9日、長期金利の代表的な指標である新発10年物国債の流通利回りが初めてマイナスをつけたことを受け、ある地銀幹部はため息をついた。日銀のマイナス金利導入(1月29日決定、2月16日実施)に、世界経済の先行き不安が追い打ちをかけ、安全資産とされる国債に投資資金が殺到。長期金利は当面、低迷しそうな雲行きだ。
長期金利低下の引き金になった日銀のマイナス金利は、銀行が日銀に預けているお金の一部にマイナス0.1%の金利をつけるというもの。これまで銀行は、日銀にお金を預けていれば0.1%の金利がついた。しかし、今後は眠らせているお金を融資や投資に回さなければ「罰金」をとられる形になる。このため、国債へ資金を移す動きが加速しているのだ。
日銀のマイナス金利導入決定を受け、銀行の収益が悪化するとの懸念から、銀行株は軒並み下落した。ただ、日銀は銀行経営が大打撃を受けないよう、マイナス金利の適用範囲を銀行が預けているお金の一部にとどめており、「罰金」による収益への影響は大きくないとみられている。その額は全体で10兆円レベルにとどまるとされる。これだけなら、銀行経営への直接の影響は限られる。
収益圧迫から「ハイリスク商品」に手を出す可能性
しかし、地銀が恐れているのは、長期金利のマイナス化による貸出金利のさらなる低下だ。ただでさえ、資金需要の伸び悩みや金融機関同士の競争激化を受けて貸出金利は低下を続けてきた。今後は住宅ローンや企業向け融資の金利が一段と下がる一方、顧客離れにつながる預金金利の引き下げには限界があり、本業の貸し出しによる収益の減少は避けられない。
国債価格の上昇(金利は低下)により、当面は地銀が保有している国債も含み益が生じるため、「すぐに地銀の経営が悪化することはない」(金融庁幹部)。しかし、中長期的には国債の運用利回りも低下する。市場では「預金を集め、担保を取って融資し、余ったお金で国債を買うという伝統的なやり方だけでは立ちゆかなくなる」(アナリスト)との厳しい見方が大勢だ。
金融庁は、運用先に困った地銀が、収益確保のためにハイリスクの金融商品の運用を増やす可能性があるとして、十分なリスク管理体制をとっているか、監督を強める方針。従来から地銀に対して、担保に頼らない融資を増やし、収益力を強化するよう求めてきたが、一段とハッパをかける構えだ。金融庁幹部は「ベンチャー企業など将来性のある貸出先を掘り起こしたり、取引先の紹介やM&A(企業の買収・合併)の支援などさまざまなサービスを提供したりすれば、まだまだ利ざやや手数料は稼げるはずだ」と指摘する。
ただ、新たな収益源を確立できない地銀は、苦境に立たされそうだ。市場からは「利ざやの縮小を貸し出しの量で補うのも限界。さらに量を増やそうして『規模の利益』を追求するとすれば経営統合しかない」(アナリスト)との見方が強まっている。マイナス金利が地銀の再編を一段と加速させることになるのかも、一つの注目点だ。