労働環境改善を訴え「アリさんマークの引越社」とトラブルになっている男性社員(34)が1か月に147時間もの残業をしていたことが話題になっている。国が過労死ラインとする100時間をオーバーしているからだ。
男性社員は、労働組合に入って会社側と交渉を続けており、2015年10月には、男性副社長が組合員らを恫喝していたとも受け取れる動画が物議を醸した。
これだけ働いても、手取り給与は27万円余
テレビ東京のドキュメンタリー番組「ガイアの夜明け」では、16年2月9日夜の放送で、この社員の活動ぶりを取り上げた。社員は、番組の中で自らの給与明細書を示し、その内容がネット上で波紋を呼んでいる。
明細書によると、この社員が5年前の入社以来、最も働いたとした14年4月は、総労働時間が342.8時間になっていた。この月は、3日だけ休んで27日間出勤しており、1日平均で12.7時間働いていたことになる。春の引っ越しシーズンともあって、かなり忙しかったようだ。このうち、残業時間は、なんと147時間に達していた。
これだけ働いたにもかかわらず、手取り給与は、27万2602円だった。実質的な時給に換算すると、795円ということになる。
番組によると、会社側は、団体交渉の申し入れに返した回答で、1か月の労働時間のうち70時間を「みなし残業」で付けていた。これは、賃金の中に一定時間の残業代を組み込むものだ。
明細書を見ると、「時間外手当1」は、3万1417円とあり、これがみなし残業代に当たるらしい。しかし、時給に換算すると、449円とかなり安い額になり、時間外の割増賃金とはとても言えないようだ。「時間外手当2(深夜)」は、12万2528円とあったが、残りの77時間の残業代になるらしい。時給換算では、1591円だった。
「係争案件になってくるので、回答できない」
厚労省の監督課によると、時間外労働については、労働基準法上は労使で協定を結ばないといけない。それでも、月の限度は45時間とされており、男性社員の147時間は、その3倍にも達することになる。
仕事が時期的に忙しい場合は、特別条項を作って45時間以上の残業もできるが、それは1年の半分を超えないこととされている。男性社員は、番組の中で「毎月300時間は普通に超えていた」と証言しており、事実なら残業が100時間ほどとなり、違法状態の可能性があるようだ。
労使協定については、男性社員は、採用時に就業規則などのコピーももらえず、残業についての説明もなかったと話していた。これも、事実なら違法の可能性がある。
時給449円のみなし残業については、監督課では、70時間までは働かないケースもあるので、労使で取り決めをすることは可能であり、違法とは言えないとした。しかし、もし70時間働かせれば、割増賃金を払っていないことになり、違法の可能性があると言っている。
こうした点について、引越社に取材したが、広報担当者が「係争中の案件になってきますので、現段階では回答できることはないです」と答えた。