2016年が明けて早々、景気回復によって増えた税収の使い方を巡る議論が本格的に始まった。政府の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)は1月21日に検討に着手し、6月にまとめる「経済財政運営の基本方針」(骨太の方針)に盛り込む。
ただ、年明けから株価が大幅に下落するなどアベノミクスにも陰りが見られる。先進国最悪の財政赤字が拡大し続けるなかで、議論の前提も揺らぎかねない。
軽減税率の財源も先送り
この問題をめぐる「前哨戦」ともいえる議論が、2017年4月の消費税率引き上げ(8%から10%)に伴い導入される軽減税率の財源を巡って始まっている。2015年末の与党の税制改正論議で酒類と外食を除く飲食料品全般と定期購読の新聞への税率を8%に軽減することが決まったことで、消費税の税収は年間1兆円減り、うち6000億円が手当てされないため、その穴埋めは「今後1年かけて安定的で恒久的な財源を確保する」と、結論を先送りしている。
これについては、通常国会で野党が追及している。安倍首相は1月12日の衆院予算委員会で、アベノミクスの効果で今後も税収増が「ある程度、続いていくと考えることも可能」とし、恒久的な財源になり得るとの認識を示し、税収上振れ分を軽減税率の財源に当てうるとの考え示唆した。これに対し、麻生財務相は「(税収は)経済状況により下振れすることもある。安定した恒久財源とは言えない」と、首相答弁を真っ向から否定した。
「閣内不一致だ」との野党の批判を受け、財務省は「税収の上振れは基本的には安定的な恒久財源とは言えない」とする統一見解を公表。ただ、「税収増をどう考えるかについては、経済財政諮問会議で議論していく」とも付記され、諮問会議に議論が先送りされたというのが、現時点の状況だ。
「税収の上振れは安定財源ではない」
諮問会議での議論は、首相の新しい旗印である「1億総活躍」のための財源確保が主眼だ。首相は21日の会議で、1億総活躍の実現のために安定的な財源確保が必要を指摘したうえで、「アベノミクスの成果の活用をどう考えていくか議論してもらい、明確な方針を盛り込んでいただきたい」と述べた。「成果」とは、ズバリ、税収の増加だ。
第2次安倍内閣発足後、税収は毎年想定より増えており、国と地方を合わせた税収は21兆円増えている。2014年の消費税率の5%から8%へのアップによる増収6.3兆円を除いた国の増収分だけで8兆円に達する。首相は、こうした税収増を基に、2017年度予算には1億総活躍を中心に新たな施策を打ち出す考えとされる。
ただ、財政状況が厳しい中で、野放図に使うわけにはいかないのは、首相も承知しており、「経済財政再建計画の枠内」との考えを示した。一般歳出の伸びを2016年度から3年間で1兆6000億円を目安に抑えるというものだ。首相は、これは守りつつ、税収が増えた分の一部を「別枠」として新規施策に充てるとの見方が強く、こうした「別枠」活用の手法は、従来から予算編成のテクニックとして駆使されてきた。軽減税率で不足する財源も、税収増加分を充てることが検討されるというわけだ。
「税収増は安定財源ではない」という正論に対して、首相サイドからは「税収上振れ」ならぬ「税収底上げ」なる議論も出てきた。甘利明経済財政担当相は、日本経済の足腰が強くなり、毎年の税収見積もりが底上げされたと判断できる分を、景気変動による増減の「上振れ」と区別するとの論を提唱し、諮問会議で議論する方針を示している。
「財政再建派」vs「上げ潮派」の構図が続く
元々、税収の使い道をめぐっては、財政赤字の削減に使うべしという「財政再建派」と、財政再建のためにも景気を良くして税収を増やせという「上げ潮派」の対立がある。安倍首相は第1次内閣の時から、基本的に上げ潮派に軸足を置いているのは間違いなく、それを体現しているのが甘利経財相の「底上げ」論といえる。
ただ、「景気変動か、底上げかの線引きは明確ではなく、所詮は政治的判断になる」(大手紙経済部デスク)。アベノミクスの成果と言っても、金融の「異次元緩和」による円安と株高で大企業を中心に収益が上がり、税収が増えた面が強い。まして、年明けから、中国の景気減速や原油価格急落など世界経済の先行き不透明感が増し、世界的に株価が下落する中、「円高・株安に振れると税収は頭打ちになりかねない」(財務省)との懸念は高まっている。
政権の命運を左右するアベノミクスの揺らぎに、「口利き疑惑」の甘利氏の進退問題も絡み、税収増加分をめぐる議論の先行きは見通せない。