長野県で起きたスキーバス転落事故に関連し、大手マスコミが犠牲者たちの「顔写真」をSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)から入手して掲載したことがインターネット上で物議を醸している。
法律上では「許諾なしで利用できる」と考えられているようだが、何気なく公開していた写真がマスコミに使用されることに対し、違和感を持つ人もいる。
弁護士「報道目的であれば許諾なしで利用できる」
2016年1月15日未明、軽井沢町でスキーツアーの大型バスが道路脇に転落し、運転手2人と大学生12人の計14人が命を落とした。
これを受け、朝日、読売、毎日、産経の4紙は、亡くなった大学生の生前のエピソードと顔写真を17日付朝刊に掲載した。実は写真の多くは、犠牲者本人がフェイスブックやツイッターで公開していたものだった。テレビ局でも同様の写真を使用していた。
掲載された大学生たちは亡くなっているため、本人からの許諾は当然得られていない。無断だとすれば使用に問題はないのか。
すべての人には「承諾なしに、みだりにその容貌、姿態を撮影、公表されない権利」とされている肖像権がある。日本の法律でこれを明文化したものはないが、判例によって認められている。そのため大手マスコミは肖像権を不当に侵害しないことを自社の報道ガイドライン等に記している。
その上でマスコミは大きな事件や事故が起きた際、被害者や加害者の顔写真を報道してきた。マスコミには「公共・公益のため」という大義名分があり、写真掲載も法的に問題ないと考えられている。
今回のようにSNS上の写真を使用することも同様の認識のようだ。日本新聞協会の公式サイトには、元知財高裁判事の三村量一弁護士の話として「ソーシャルメディアに投稿された顔写真についても同様に、報道目的であれば許諾なしで利用できると述べた」と記されている。
なお、写真は著作物だが、報道や批評、研究などのための正当な範囲内であれば引用が認められている。4紙のうちでは朝日新聞のみ「フェイスブックから」「ツイッターから」と一つ一つに出所を明示していたが、これは引用条件に配慮したものとみられる。
「倫理的な是非についてはもう少し議論していかなければならない」
しかし、法律上は問題なかったとしても、倫理的な観点から疑問視する人は多い。ネット上では、大学生たちの写真の入手先がSNSだと分かるやいなや、違和感を指摘する声や批判的な意見が数多く上がった。
「死んだらFacebookの写真はフリー素材になる」「最近のマスコミは被害者顔写真をカジュアルにFacebookからパクってくる」といった皮肉も少なくなく、「死後情報公開意思表明カード」が必要になるとの提案も飛び出した。
元新聞記者で法政大学准教授の藤代裕之氏は17日、Yahoo!ニュース個人に寄せた記事の中で、「個人が身近に使っているソーシャルメディアの写真を死後に『勝手に』使われる気味悪さ」を指摘。その上で、
「現状のルールでは『引用』の範囲内だとしても、社会的に課題があるとすればマスメディアは扱い方を検討すべきですし、社会的な制度としても議論されるべきです」
と主張した。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏も17日、自身のFacebookで「このようなかたちでSNSから被害者顔写真を転載することへの倫理的な是非についてはもう少し議論していかなければならないんじゃないかな」とコメント。さらに記者側の観点として、
「『ガンクビとり』(編集部注:記者が加害者や被害者の顔写真を家族・知人から入手することを表す業界用語)という苦痛と悔悟をともなう行いが、Fbからの転載という机上の非常に簡単な作業に変わることによる『安易さ』が記者の側の当事者意識に何をもたらすのか、という視点も必要」
と述べた。