出版不況が泥沼化している。
2015年の1年間に国内で出版された書籍と雑誌の売上高が、32年ぶりに1兆6000億円を割り込む可能性が高まっている。市場規模がピークだった1996年の2兆6563億円の6割を下回る水準だ。
「火花」大ヒットも焼け石に水
書籍や雑誌の売り上げの落ち込みはどうにも止まらない。出版統計をまとめている出版科学研究所の「出版月報」2015年12月号によると、15年1~11月期の書籍・雑誌の売上高(推定)は、前年同期比5.2%減となった。
11年連続のマイナスで、落ち込みは過去最大の減少といわれた2014年(年間)の4.5%減を上回った。12月の売上高が前年並みとしても、年間売上高は1兆5000億円台にとどまる可能性が高い。
書籍は、お笑い芸人の又吉直樹さんが書いた芥川賞受賞作「火花」が累計240万部を超える大ヒットで沸いたが、消費増税の影響で読者の購買マインドが冷え込んだ影響が残り、書籍販売の約3割を占める文庫の不振が止まらなかった。書籍全体で前年同期比1.9%減と、なんとか小幅の落ち込みに踏みとどまったといったところだ。
これに対して、雑誌は8.2%減。月刊誌は6.9%減、週刊誌に至っては13.4%減と、かつてない落ち込みを示した。雑誌は2011年に、すでに9843億円と1兆円の大台を割り込んでいて、下落に歯止めがかからない。
2015年は「火花ブーム」の陰で、雑誌の「休刊ラッシュ」でもあった。
宝島社は、1974年の創刊以来さまざまなサブカルチャーをけん引してきた総合雑誌「月刊 宝島」と、ストリートファッションブームの火付け役となった女性ファッション誌「CUTiE」を8月に休刊。女性向けファッション誌では、学研教育出版の「ピチレモン」が12月号(10月31日発売)で休刊した。「ピチレモン」は10代向けのファッション誌で、専属モデルからは女優の宮崎あおいさんや長沢まさみさん、栗山千明さんらを輩出したことでも知られる。
リクルートホールディングスが発行しているフリーマガジン「R25」も9月24日発行号をもって休刊。webサイト「webR25」と統合した。
専門誌では、中経出版が発行する「歴史読本」が2015年秋号で59年の歴史に幕を下ろした。さらに、日本将棋連盟の「週刊将棋」は2016年3月30日号で休刊することになった。将棋人口の減少がその理由とみられる。
出版科学研究所などは、いずれもインターネットやスマートフォンの普及に伴うソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)やゲームに時間を奪われていることが、出版物の売り上げに影響しているとみている。
たとえば、かつては若い女性の多くが「anan」や「non‐no」などのファッション誌を読んで情報を仕入れ、さまざまなブームやスタイルをつくってきた。そういった情報の入手先が、若者を中心に雑誌からインターネットに代わった。
「1冊も本を読まない」47.5%
書籍や雑誌の売り上げの減少は、日本人の読書離れと無関係ではないようだ。最近の日本人の読書量は確実に減少している。
文化庁の「国語に関する世論調査」(2014年3月実施)によると、マンガや雑誌を除く1か月の読書量は、「1、2冊」と回答した人は34.5%。「3、4冊」は10.9%、「5、6冊」は3.4%だった。「7冊以上」の人は3.6%にすぎない。その半面、「読まない」との回答は47.5%にのぼり、最も多かった。全国の16歳以上の男女3000人を対象に聞いた(回答率58.4%)。
前回調査(2009年)に比べて、1冊も読まない人の割合は1.4ポイント増加。前々回の2002年の調査からは10ポイント近く増えており、日本人の読書離れもまた止まらない。
なかでも、「読書」に親しんでいると思われていた高齢者に「読まない」割合が高く、70歳代以上で59.6%、60歳代で47.8%にのぼった。一方、20歳代は40.5%、10歳代(16~19歳)は42.7%だった。
文化庁は、高齢者の場合は視力の悪化など健康上の理由が大きいとみているが、高齢者でもインターネットに移っている人が少なくないとみられる。
また、出版科学研究所の出版統計は、国内を流通するすべての出版物の売り上げを集計しているわけではない。たとえば、出版社による直接販売やアマゾンなどを経由した売り上げは取次業者を通らないため、出版統計には反映されていない。最近はこうしたインターネットを通じた書籍の購入が増えているとされる。