デザイン案が白紙撤回の後、ようやく「A案」で動き始めた新国立競技場計画だが、その発進にまたも物言いがついている。当初デザインを担当していたザハ・ハディド氏からだ。
「本日発表されたデザイン(=A案)は、我々のデザインと驚くほど似ている」
伊東氏「ひょっとするとこれ、ザハさんに訴えられるかも」
ザハ氏はデザイン案の正式発表が行われた直後の2015年12月22日、事務所を通じて上記のような声明を発表した。
ザハ氏による未来的なシルエットの旧案。建築家・隈研吾氏が手がけた「木と緑のスタジアム」がテーマのA案。一見すると、そのデザインはまったく別物にしか見えない。だがザハ氏の声明によれば、「スタジアムのレイアウトや座席の配置」などが酷似しているという。
具体的なポイントとして挙げられているのが、3層のスタンドだ。観客の見やすさを重視するとともに、工事が比較的容易なため工期短縮にもつながるともされ、A案の売りでもあるのだが、ザハ氏側はこれが旧案を参考にしたものだと主張する。確かに、ザハ氏の構想でもスタンドは3層となっており、A案のチームに入っている大成建設は、旧案でスタンドを担当する予定だった。
国内からもザハ氏には「援護射撃」が出ている。負けたB案をデザインした、伊東豊雄氏だ。22日の会見で、やはりA案とザハ氏案の類似を指摘し、
「ひょっとするとこれ、ザハさんに訴えられるかもしれないな、というくらいに思っております」
と厳しい見方を示す。
隈氏「両方の差は、はっきりしております」
隈氏も、もちろん反論している。8万人という規模の観客に対応するためには、3層のスタンドは「一番合理的」なアイデアであり、重なったとしてもおかしくはないし、そのスタンドの形状も、ザハ氏案とは別物だ――と22日の会見で語り、
「両方の差は、はっきりしております」
と自信たっぷりに言い切った。
今回、A案が採用を勝ち取ったのは、建設までの時間が限られる中で、工期の面での優位性をアピールできたことが大きかったとされている。
しかし、選考前の段階で、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、「外側だけ見るとB案の方がいい」「A案はお墓のよう」などとB案に肩入れするような発言を繰り返したため、「森会長の意向で決まったと思われないため、あえてA案にしたのでは」と勘繰る声もある。B案の伊東氏も、森氏の発言に「まずいな」と内心思っていたと、会見で言及した。
ザハ氏の今後の動き次第では、森会長の「失言」が、さらなる禍根の種になることも予想される。