入院過多、薬づけの精神医療を批判している精神科医、評論家の野田正彰さんが2015年12月12日、仙台市で講演した。タイトルは「精神科医療の現実を知る」で、主催は自死遺族の会「藍の会」。
自死(自殺)で家族を失った会員だけでなく、回復した患者や闘病中患者、一般市民も参加、講演後には率直な質疑応答が続いた。
「抑うつ反応」を「うつ病と」診断
野田さんはまず、うつ病と自死の関連を取り上げた。世界共通でうつ病は30代までに発病し、女性に多い。しかし、日本の中高年の自死は男性が女性の4倍もある。日本社会は男がいばり、男の責任が大きく、経済などの負荷が男にかかる文化になっている。ローンの負債を最後は生命保険で払う構造も自死を増やしている。
野田さんは2013年に出版した著書『うつには非ず』での指摘を強調した。9症状のうち6つ合えばうつ病という米国の簡略基準で、病気でない「抑うつ反応」がうつ病と診断され、大量のうつ病薬が使われ、精神科医療そのものがおかしくなっている。
統合失調症は10代後半から20代に多い。日本の精神科医は、統合失調症は治らない、一生薬を飲めと言う。しかし、著名な欧米の教科書では、35%から40%は良くなると書いており、野田さんによれば、40%は治り、30%はまあまあ、30%は治らない。日本の行政は精神科医と結託し、患者が病院へ直行するシステムを作っている。精神病薬は心臓死、肝臓障害、脳血管障害など副作用を招く。日本の精神病患者は海外の10倍以上、28万人もが入院し、しかも月2000人、年に 2万4000人もが亡くなっている。
野田さんが相談を受けた30代主婦は、うつ病との診断で2009年、東京の大学病院に入院し、2週間でおむつ、無反応になった。彼女には、うつ病だけでなく、甲状腺障害、てんかんなど22の病名がついたのに、カルテに症状の記載はない。そんないい加減な医療が一流病院で、堂々とまかり通っている。また、東京は電気ショックの乱用が多く、そのせいと思える自死が増えている、とも指摘した。
質問に答えて、野田さんは、具体的な薬の減らし方なども説明した。また、災害などのショック後のPTSD(心的外傷後ストレス障害)や、多重人格については「私の経験からは、日本ではほとんどない」とも述べた。
(医療ジャーナリスト・田辺功)