日本はじめ世界の鉄鋼メーカーが2015年に入り業績悪化に苦しんでいる。中国経済の減速で中国内の需要 が下がっている一方で、中国産鋼材の世界への供給過剰が止まらず、世界的鋼材の「値崩れ」を起こしているためだ。
日本の鉄鋼大手3社も業績予想を相次ぎ下方修正しており、2016年3月期は各社ともに減収減益となる見込みだ。再浮上のきっかけもつかみづらい状況が続きそうだ。
中国の輸出攻勢で悪化した世界の需給バランス
日本の鉄鋼大手3社の2015年9月中間連結決算は、新日鉄住金とJFEホールディングスは減収に直面した。純利益は、韓国最大手のポスコから鋼板の知的財産をめぐる訴訟で和解金300億円を受け取った特殊な状況にある新日鉄住金を除き、2社が減少した。
売上高は新日鉄住金が前年同期比9.8%減の2兆5075億円、JFEは7.3%減の1兆7132億円。神戸製鋼所は、飲料缶向けアルミ製品が好調だったこともあって1.4%増の9286億円だった。純利益はJFEが42.8%減の299億円で、神戸製鋼所は68.1%減の134億円と大幅な減益となった。
中間決算の記者会見では、苦境にあることを隠さない率直な発言が相次いだ。新日鉄住金の太田克彦副社長は「中国からの輸出が伸びていることで、アジア市況が悪化している」と指摘したうえで、「世界の鉄鋼業は非常に厳しい時代が続く」と述べた。また、予想以上に積み上がった鋼材在庫について、「もう少し調整が進むと期待していたのだが」と肩を落とした。
JFEの岡田伸一副社長も「中国が輸出を強めており、需給バランスが悪化している。9月あたりから輸出拡大は顕著になった。下期もこの環境は続きそうだ」と述べ、中国の安価な鋼材輸出の影響の大きさに触れた。岡田副社長は、海外市況について「現時点で回復時期は見込めない」と厳しい見通しを示した。
鉄鉱石の価格下落も「悪循環」に拍車
日本の鉄鋼大手各社はだぶついていた在庫調整のため、2015年4月から大幅な減産を始めた。予定では、その効果が市況に現れ、中国の輸出攻勢も収まって10月以降の下半期には減産を解除するはずだったのだが、その目算が大きく外れてしまった。とりわけ、中国の9月の鋼材輸出量が単月で過去最高を更新する勢いとなったのが誤算だった。こうしたことを背景に日本国内の鋼材単価は、2014年10~12月の1トン当たり8万円弱を直近のピークに下がり続け、2015年7~9月には7万円弱にまで下がった。需給バランス悪化による鋼材価格の下落は、鉄鉱石などの原料価格にも低下圧力をもたらしている。鉄鋼メーカーには朗報のようにも聞こえるが、自動車メーカーなど実需家による鋼材値下げ圧力につながっているだけで、鉄鋼メーカーにとっては負の連鎖とも言える「悪循環」といえる。
鉄鋼市場の専門家によると、鋼材価格下落の震源地で世界最大の粗鋼生産を誇る中国には「3つの過剰」があるという。1つは生産能力。2つ目が、それに伴う鋼材の供給過剰。3つ目は鉄鋼企業数の多さだ。
3つの過剰のなか、中国は世界最大の年8億トンの粗鋼生産を続ける。その結果、中国国内の需要の減少によって余った分が輸出にまわり、世界の市況を悪化させるわけだ。こうした中国の問題の解消には「10年かかる」(国内証券系アナリスト)との見方もあり、先行きが読めないのが実情だ。
中国製品の輸出による市況悪化の影響は無論、日本メーカーにとどまらない。世界最大手の欧州アルセロール・メタルの2015年7~9月期決算は、純損益が7億1100万ドル(約870億円)の赤字に転落した。前年同期は2200万ドルの黒字で、赤字は2四半期ぶり。ミタルは10~12月期も環境は改善しないと見ており、12月期通期の業績予想を下方修正し、無配とすることも決めた。中国の鉄鋼大手、宝山鋼鉄の2015年7~9月期も純損益が日本円で200億円近い赤字に転落。鉄鋼世界同時不況の様相を呈している。