たった一本の髪の毛の検査から、将来の薄毛や脱毛のリスクが分かる――そんな世界初の検査法が日本で開発され、2015年10月に公表された。これまでの検査法に比べて格段に精度が上がったという。
自分の髪の毛の状態が分かることで、より最適な治療法も選べるようにもなる。いったいどのような検査なのか。
これまでの検査では十分に解明できなかった
男性の薄毛・脱毛は「AGA(エージーエー)」と呼ばれる。Androgenetic Alopecia(男性型脱毛症)という医学用語の略だ。額の生え際や頭頂部の髪が、どちらか一方、または双方から薄くなっていく。若い男性にも見られ、だんだん進行して目立つようになる。
今回、新しく開発されたのは「AGAリスク遺伝子検査」。毛髪を採取し、その根元に付着している「毛包」という部位を検査する。
開発に携わったメンズヘルスクリニック東京の小林一広院長、聖マリアンナ医科大学の井上肇特任教授によると、直接毛髪から遺伝子を抽出、特殊な酵素を分析することで、AGAの原因物質である「ジヒドロテストステロン」のできやすさがわかり、発症リスクの判定ができるという。
AGAのリスクが判定できる検査として、これまで「アンドロゲンレセプター遺伝子検査」という、血液を分析する方法があった。
「アンドロゲンレセプター遺伝子検査は、体質的にその人がAGAになりやすいかどうか、を調べるものでした」(井上氏)
ところが、この検査では、検査結果と実情が必ずしも一致しないことがあった。
実際にクリニックでAGAの治療をしている小林一広院長も、しばしばそうした例を見てきたという。
「例えば、遺伝子は基本的に同じはずの一卵性双生児の検査をおこない、ふたりとも『なりやすい』という結果が出たにも関わらず、ひとりはAGAになり、もうひとりはなっていない、ということがあったのです」
AGAは遺伝の影響が大きいといわれているが、遺伝子だけで決まるのであれば、この一卵性双生児はふたりともAGAになってしまうはずだ。つまり、環境や生活習慣など、遺伝子以外の影響も無視はできないということになる。
「体質ではなく、検査をした時点でどれだけリスクがあるのかがわかる方法が必要だと考えました」(小林院長)
そこで開発されたのが、「AGAリスク遺伝子検査」だ。
ふたつの検査を組み合わせればより効果的か
「AGAを発症する前に、原因物質のジヒドロテストステロンが発現しやすいということがわかれば、発現量を抑える薬を飲むという予防的な治療も可能です。逆に、それほど発現しないようであれば、別のアプローチを考えることもできるでしょう」(井上氏)
さらに、従来の検査と組み合わせれば、よりリスクを判断しやすくなる。つまり、「体質的になりやすい」人が「ジヒドロテストステロンができやすい」状態であれば、リスクは非常に高いと考えられるし、「できにくい」のであれば、リスクはあるにせよそれほど高くない可能性もある。
「体質的になりにくい」人でも、「ジヒドロテストステロンができやすい」のであれば、予防手段をとっておこう、という判断もできるだろう。
「より医療技術が進歩すれば、若いころに検査を受け、リスクが高いと判断された人は自分の毛髪の幹細胞を保存しておき、発症したときに頭部に移植する、という治療も実現するかもしれませんね」(小林院長)
AGAの治療薬には「フィナステリド(商品名プロペシア)」や、年内に発売予定の「デュタステリド(商品名ザガーロ)」などがある。新しい検査では、どちらが自分にあっているかを判定することもできるという。