2015年に入って中国から日本を訪れる観光客が倍増するなか、菅義偉官房長官が中国・香港系テレビのインタビューで、有効期限内であれば何度でも使える「数次ビザ」(マルチビザ)について、中国人向けに発給要件を緩和する方針を示した。
政府は2015年1月に発給要件を緩和したばかりだが、発給されるビザの大半は団体旅行客向けの1回限りのもので、訪問先を限定しない個人旅行向け数次ビザ発給の対象は「相当の高所得者」に限られている。この要件が緩和されれば、中国からの個人旅行者増加につながりそうだが、日本政府の思惑とは何なのか。
香港系のテレビインタビューで大陸でも放送
日本政府観光局(JNTO)のまとめによると、15年1~10月に日本を訪れた外国人観光客は1631万人で過去最高だった前年同期を48.2%上回った。その中で最も多かったのが中国からの観光客で、同112.9%増(2.13倍)の428万4000人だった。
この統計が発表された11月18日午後に行われた菅氏の定例記者会見では、中国人観光客による「爆買い」が話題にのぼった。「爆買い」が「2015ユーキャン新語・流行語大賞」の候補にノミネートされた50語に含まれたためだ。
菅氏は、必ずしも「爆買い」という言葉には良いイメージを持っていないようで、
「中国の皆さんの『爆買い』というのは何となく『買い集める』というイメージだが、現実的には様々なことに配慮しながら、消費をしていただいていると思っている」
と述べたが
「そうしたことが流行語大賞の話題になるということは大変いいこと」
とも述べた。
「お互いの国を知ってもらうのに非常にいいこと」
そんな中、菅氏は香港に拠点を置くフェニックステレビのインタビューに応じ、さらに中国人観光客の増加策を打ち出す考えを示した。インタビューは11月23日から24日にかけて複数回にわたって中国大陸でも放送された。観光客増加の要因について、「一つは円安がある」としながら、政治主導によるビザ緩和の効果を強調。犯罪も増加していないとした。
「(1月に)思い切ってビザを緩和した。この効果が非常に高かった。間違いなく、まぎれもなく政治主導。どうしても官僚は事故、犯罪があるとどうしても(自らの)責任になる。そこについては安全対策のために予算も人員も政府が責任をもってやる。政府の方針だということで関係閣僚が10分で決めた」
「去年から500万人増えたが犯罪は横ばい、逆に微減。そういう意味で日本の治安当局も、しっかりやっていると思っている」
これに加えて、数次ビザの緩和といった観光客増加の取り組みについて
「ここは当然考えていきたいと思っている。日本とすれば、そうしたビザというものは緩和していきたいと思っているし、それと同時に観光というのはお互いの国を知ってもらうのに非常にいいことだと思っている」
と話した。
14年のビザ発給統計によると、14年に中国人向けに発給されたビザの件数は約205万件で、そのうち観光客向けが154万件だった。団体客向けがそのうち110万件を占め、個人向けの数次ビザは約2万件にとどまっている。