さすがトヨタ、2016年から給与そのままで実質「定年延長」 グループ間の待遇格差はさらに拡大する

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   トヨタ自動車が2016年1月、人事制度を大幅に刷新する。工場で働く従業員は定年退職後も65歳まで現役時代と変わらぬ待遇の維持が可能になる「家族手当」も見直して子育て世帯支援も強化する。国内で人手不足感が高まる中、従業員を手厚く遇することで優秀な人材の流失を防ぎ、競争力を高める狙いだ。ただ、トヨタ本体の従業員への温かい対応は、グループ企業や下請け企業との格差を広げるという危うさもはらんでいる。

   トヨタが見直すのは「スキルド・パートナー(SP)」と呼ばれる再雇用制度。工場で働くトヨタ本体の従業員の約6割を占める約4万人が対象となる。現在は、60歳を迎えた定年退職者をSPとして再雇用しているが、現役時代に比べて収入が半分程度に下がる。そこで、新たに「上級SP」との職位を設けて再雇用、上級SPは一定の条件をクリアすることにより、技能などに応じたさまざまな手当が支給され、65歳まで現役時代とほぼ同じ待遇を維持することが可能になる。

   配偶者手当はなくなるが、子供1人に2万円を支給こうなると、定年退職→再雇用というより、実質的な定年延長といえる。トヨタは制度の見直しで定年後も再雇用される工場従業員の割合を、現在の7割から引き上げようとしている。技能の高い高年齢者を積極的に活用し、国内工場の競争力を維持・強化しようというわけだ。人件費は当然増えるが、得意のカイゼンによる生産性向上で賄えると算盤を弾く。もっとも、現行制度を続けても、新たに人手を確保する費用がかかることを考慮すると、SPの処遇改善が利益を大きく押し下げる要因にはならない可能性もある。

   また、工場従業員の仕事ぶりを評価して待遇を厚くする「技能発揮給」と呼ばれる制度も2016年1月に導入する見通しだ。技能発揮給は、責任感や規律、協調性などを評価のポイントとし、その仕事ぶりに応じて月給に最大1万5000円を上乗せする手当。減点主義ではなく、プラス評価によって従業員のやる気を引き出す。また、従業員を評価する管理職「チーフリーダー」「グループリーダー」は「工長」「組長」とそれぞれ呼称を改め、管理職としての手当を支給する。

   一方、トヨタは新制度で、家族手当を見直す。現在、子供1人につき月5000円が支給されているが、これを4倍の1人約2万円に引き上げる。ただし、その一方で現在月1万9500円が支給されている「配偶者手当」は原則として打ち切る。この配偶者手当は専業主婦<主夫>もしくは妻か夫の年収が103万円以下の場合に支給されている。新制度では、妻が専業主婦で子供がいないか子供1人の世帯は収入が減るが、子供が2人以上いる世帯にとっては基本的に増収となる。子育て世帯に手厚くしながら女性の就労を後押しする狙いだ。

  • 人事制度刷新はトヨタ式経営にどう影響を及ぼすのか。
    人事制度刷新はトヨタ式経営にどう影響を及ぼすのか。
  • 人事制度刷新はトヨタ式経営にどう影響を及ぼすのか。

労働組合は格差是正で難しい対応

   最高益を更新し続けるトヨタが従業員の待遇を厚くして工場の力をさらに高めるのは、企業としてごく自然なことだ。世界販売台数首位を争う独フォルクスワーゲンがディーゼルエンジン車の排ガス規制逃れ問題で失速を余儀なくされる中、トヨタの独走を象徴する動きともいえる。

   ただ、トヨタグループ間の格差の問題は残る。9月11~12日に仙台市で開かれたトヨタグループの労働組合でつくる全トヨタ労連(315組合、組合員約33万5000人)の定期大会では、トヨタ本体が2015年春闘で過去最高のベアを実現した結果、加盟労組間で賃金格差が広がったことが問題となった。大会に先だって記者会見したトヨタ労連の佐々木龍也会長は、2015年春闘で格差が広がったことを認めたうえで、格差是正に取り組む考えを強調したが、今回のトヨタ本体の人事制度刷新で、労連内の処遇の差が広がる可能性があるだけに、労連も難しい対応を迫られるかもしれない。

   さらに、トヨタは主要な部品仕入れ先を対象にした納入価格交渉を半年ごとに行っているが、利益還元策として2014年10月から1年間は値下げ要請をやめていた。しかし、2015年10月以降は値下げ要請を再開する方向で調整している。これも本体と仕入れ先との格差を広げることにつながりかねない。

   日本の製造業を引っ張るトヨタが潤い、社員に還元するのは当然としても、グループ各社や取引先との格差の拡大は、トヨタ式経営にとって新たな難問になるかもしれない。

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