米アップルの新型スマートフォン「iPhone6s」「iPhone 6sプラス」の世界発売が2015年9月25日に始まった。各種部品を納入する日本の電子部品メーカーにとっても、その売れ行きは業績に直結する。ここまでの2015年4~6月期連結決算は、電子部品大手7社すべてが増収増益と絶好調。その勢いを持続できるかどうかがかかるだけに、各社とも「6s商戦」を注視している。
モーター、液晶パネル、電池...みんな日本製
「6s」は、指で画面を押した際の強さ(圧力)を検知し、その強さに応じて異なる操作を可能にする新機能「3Dタッチ」を搭載するなど、さらなる高機能化が図られた。「3Dタッチ」を実現した部品には、日本電産の小型モーターが使われたとされている。また、従来からコンデンサーや電池、液晶パネルなど主要部品の多くを日本メーカーが納入している。
iPhone 6シリーズは2014年9月の発売以来、日本メーカーの業績底上げに貢献している。各社がどの部品を納入しているか明らかになっているわけではないが、円安効果も加わり、2015年3月期連結決算は電子部品大手7社中、村田製作所、日東電工、日本電産、アルプス電気の4社の純利益が過去最高を更新した。売上高はTDK、村田製作所、日本電産の3社が初めて1兆円を超え、京セラとともに4社が「1兆円企業」となった。
こうした勢いは2015年4~6月期にも引き継がれている。iPhone 6は、新商品の発売が近づいた4~6月期でも売り上げがさほど落ちなかったことも好影響を及ぼしたようだ。
さらに、「6s」「6sプラス」用の部品発注が、この期間の数字に乗った可能性もある。京セラ、村田製作所、日東電工、日本電産、アルプス電気の5社は売上高、純利益ともに4~6月期として過去最高を更新。京セラ、村田製作所はスマホ向けのコンデンサーやフィルターなどが伸びたことが背景にあるとしている。日東電工もスマホ向けのフィルムの好調で利益を押し上げた。アルプス電気はスマホ用のカメラ手ぶれ補正機器など独自の高機能製品の販売が伸びた。日本電産はスマホ向けの小型振動装置などが好調だった。
業績への好影響は電子部品大手にとどまらない。液晶パネルを供給するジャパンディスプレイ(JDI)。2015年4~6月期の売上高は前年同期比96.6%増とほぼ倍増。日本の3月期決算企業のなかで最も増収率が高かったとされ、大規模なM&A(企業の合併・買収)もないなかで、驚異的な伸びといえる。JDIは、アップルが建設費の大半を負担したという新工場を石川県白山市に建設中で、2016年5月に稼働する計画。2016年秋発売予定のiPhone 7の液晶画面を大量に生産するとみられている。
2年前のiPhone5は失速
技術やコスト面などで部品メーカーに厳しい要求をすることで知られるアップルに部品を納入することは、自動車なども含む他の完成品メーカーに「実績」としてPRできるため、営業面での効果も高いという。アップルへ納品し、それで得られる利益以上の「一粒で何度でもおいしい」好循環を享受できるというわけだ。日本メーカーの技術力の高さが実を結んでいると言えそうだ。
ただ、アップルといえども、もちろん好不調の波はある。例えば2012年秋発売の「iPhone 5」は、2013年に入って勢いを失い、部品業界に「アップルショック」をもたらした。先進国需要に飽和感が生まれつつあったなか、中韓台などアジアメーカーのスマホが台頭したからだった。
このため、日本の部品各社にとっては「アップル依存」からの脱却も課題であり続ける。アップルのみならず、スマホそのものの高機能化が早晩限界となり、電卓のような汎用品となる可能性もある。
各社とも過度の「アップル依存」への警戒を怠らず、自動車部品を中心に市場開拓の目配りもしている。自動運転技術など、今後も電子部品メーカーが活躍できる余地が大きいからだ。
ただ、この分野の「本家」であるデンソーや独ボッシュなど内外の自動車部品メーカーも研究・開発に力を入れており、垣根を越えた厳しい受注競争が続くのは間違いない。