日焼け止めの「SPF」や「PA」という表示について、何となく理解しているつもりでも、正確に説明できるかというと自信がない人が多いだろう。
日焼け止めの表示の意味と効果的な使用法を専門家に聞いた。
「SPF」はUV-B、「PA」はUV-Aを防御
国民の5人に1人が皮膚がんに罹患(りかん)すると言われ、国を挙げて紫外線防止対策を促進している米国でさえ、消費者の日焼け止めに対する知識は十分とは言えない。2015年6月、医学誌「JAMA Dermatology」のオンライン版に掲載された米ノースウエスタン大学による調査では、日焼け止めに表示されている「SPF」値の定義について正しく回答できた消費者は43%にとどまったという。
日本でも「紫外線から肌を守る」という意識は年々高まり、ドラッグストアには年間を通してさまざまな種類の日焼け止めが並んでいる。そのほとんどに「SPF」と「PA」の表示がある。いずれも紫外線を防ぐ効果を表しているが、これらを正しく理解するには、まず紫外線の種類をおさらいする必要がある。
地表に届く紫外線には主に、波長の長いUV-Aと短いUV-Bがある。UV-Aは肌の深部まで達し、皮膚の老化を促進する。一方、UV-Bは表皮に影響を及ぼす。主に細胞の核に吸収され、DNAに傷をつけることで皮膚がんを引き起こしたり、免疫力を低下させたりする。さらに最近では、DNAだけではなくRNA(DNAの情報をコピーする遺伝物質)や細胞内のアミノ酸にも吸収され、その結果日焼けの原因となることが明らかにされてきた。電磁波である紫外線は波長が短いほど強力なエネルギーを持つため、UV-BのほうがUV-Aより皮膚に与える刺激は強く、Aの千倍以上の有害作用を持つともいわれる。しかし近年、UV-Aがシミやシワなど肌老化に深く関わっていることや、活性酸素を発生させる力がUV-Bより高いことがわかり、UV-A防御の重要性も注目されている。
SPF(Sun Protection Factor)はUV-Bを防ぐ指標で、紫外線防御係数またはサンケア係数と呼ばれる。SPF10は「日焼け止めを塗っていないときに比べて、UV-Bが皮膚に届く量を10分の1にする」という意味だ。日焼けを起こす時間には個人差があるが、仮に20分で赤く日焼けする人がSPF10の日焼け止めを塗った場合、20×10=200分は日焼けを防ぐことができるという計算になる。
これに対し、PA(Protection Grade of UV-A)はUV-Aを防ぐ効果を表す。「+」によって4段階で表示され、+が1つなら「防御効果がある」、2つで「防御効果がかなりある」、3つで「防御効果が非常にある」、4つになると「防御効果がきわめて高い」と定義されている。一方、ヨーロッパではPAもSPF同様、数値で表されている。
「塗りやすさ」を重視して選ぶのがいい
美容・医療ジャーナリストの海野由利子氏は日焼け止めの表示について、「多くの人が使う『顔全体で大豆1粒分』程度の量では、表示されているSPFやPAの効果は得られません」と指摘する。SPFの表示は皮膚1平方センチあたりに2ミリグラム塗布して計測した数値で、顔全体の使用量に換算すると0.8~1グラム。乳液状の日焼け止めなら500円玉大くらいの量になる。現実的には顔につけられる量ではない。「顔全体に大豆1粒分しか塗らなくても日焼け止め効果をしっかりと得るには、普段からSPF50、PA++++のものを使用するのがよいのでは」
そこで、現実的かつ効果的な日焼け止めの使用法について、アンチエイジング医師団のメンバーである2人の専門家に意見を聞いた。
湘南鎌倉総合病院形成外科・美容外科部長の山下理絵医師は、「SPFやPAの強さが異なる日焼け止めを、日常使いとレジャー用など場合によって使い分けるのもよいですが、面倒なら、日常でもSPFやPAが高めのものを使ってはいかがでしょうか」と言う。さらに「SPFやPAの強さを確認することももちろん大切ですが、面倒で塗らなくなってしまうのが一番よくありません。顔だけでなく露出している部分にむらなく塗ること、こまめに塗り直すことが大切です」と強調する。ジェルやクリームなどさまざまなタイプがあるが、自分の肌に合っていること、塗りやすい基剤であることが選び方のポイントだ。「肌に合わなかったり、べたべたしたりして、買ったけれど数回しか塗らなかった、ということにならないように。塗り直しも苦にならないものがいいですね」
紫外線による皮膚の老化(光老化)の研究で世界的に知られる再生未来クリニック院長の市橋正光医師も、汗をかく真夏では、日焼け止めは自然に流れ、効果が減少するため、「塗り直しは大切」と言う。「理想は2時間おきくらいが目安。生活の中で無意識に顔を触ったりこすったりしていることもありますから、マメに塗り直しましょう」
しかし女性の場合、化粧を落として塗り直すのは手間だが......。山下医師は「日焼けしやすい鼻筋・目の下から頬骨の付近や、シミが気になる部分だけお化粧の上から塗り直し、パウダーをはたく程度でもよいと思います。とにかく日常の心がけが大事。紫外線の影響はすぐには症状に現れませんが、日々の蓄積が老化を促進するのです」と言う。
多少面倒ではあるが、肌の健康を保つためには大切なことだ。
「1日くらいいいや」という油断がシミやシワをつくる。自分にとって塗りやすいものを見つけることがカギになるかもしれない。
[アンチエイジング医師団取材TEAM、監修/市橋正光(神戸大学名誉教授・再生未来クリニック神戸院長)、山下理絵(湘南鎌倉総合病院形成外科・美容外科部長)]
参考論文
Assessment of Consumer Knowledge of New Sunscreen Labels
URL:http://archderm.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2319715
DOI:10.1001/jamadermatol.2015.1253 PMID:26083599
アンチエイジング医師団
「アンチエイジングに関する正確で、最新かつ有効な情報」を紹介・発信するためにアンチエイジング医学/医療の第一線に携わるドクターたちが結成。 放送・出版などの媒体や講演会・イベント等を通じて、世の中に安全で正しいアンチエイジング情報を伝え、真の健康長寿に向き合っていく。HPはhttp://www.doctors-anti-ageing.com 2015年4月1日から医療・健康・美容に関する情報サイト「エイジングスタイル(http://www.agingstyle.com/)」の運営も開始。