「新国立競技場の現在の計画を白紙に戻します」。2015年7月17日、安倍晋三首相は首相官邸でこう明言した。
発表は大会組織委員長の森喜朗元首相との会談直後に行われた。2019年ラグビーW杯に間に合わせるよう求めていたとされる森氏が、ついに陥落した形だ。
「森会長にも了解をいただきました」
安倍首相は「コストが大幅に膨らみ、アスリートからも大きな批判があった」と述べ、当初計画から約900億円増えて2520億円に膨らんだ総工費が見直しの理由だとした。
また会見でわざわざ「森会長にも了解をいただきました」と述べた。さらに、
「ラグビーW杯には残念ながら間に合いません。しかしW杯開催に国として支援をする考えです」
と語り、森氏への格別の配慮を見せた。
日本ラグビー協会の会長でもある森氏はこれまで、
「W杯に間に合わなくてもいい、という話になったら、あまりにもラグビーがかわいそうだ」(朝日新聞6月9日記事)
と語るなど、ラグビーW杯に間に合わせることを求めてきたとされる。
しかし安倍首相と森氏は16日夜、17日と2日続けて会談。そこで何らかの説得が行われたとみられる。安倍首相の発表に先立ち、森氏は17日のテレビ収録で「私はこのデザインは嫌だった、生ガキみたいだから」などと語るなど、計画見直しに理解を示すようになっていた。
菅義偉官房長官の17日夕方の会見での説明によると、安倍首相が1か月ほど前に、下村博文文科相に対して「本当に見直すことができないのか研究を進めてほしい」などと指示。これに対して下村氏が「今月中に見直しの判断をすれば、ギリギリ2020年の東京大会に間に合う」と返答したという。秋口にも政府として新たな計画をまとめる方針。ラグビーW杯については、菅氏も「現実的には間に合わない」と述べた。